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「井上尚弥に勝った男」「消えた天才ボクサー」と呼ばれた林田太郎は今…井岡一翔、寺地拳四朗にも勝利した元アマ王者の知られざるボクシング人生 

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森合正範

森合正範Masanori Moriai

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photograph byHirofumi Kamaya

posted2024/03/07 11:02

「井上尚弥に勝った男」「消えた天才ボクサー」と呼ばれた林田太郎は今…井岡一翔、寺地拳四朗にも勝利した元アマ王者の知られざるボクシング人生<Number Web> photograph by Hirofumi Kamaya

井上尚弥、井岡一翔、寺地拳四朗という現世界王者3人に勝利した経歴を持つ林田太郎。現在は母校・駒澤大学でボクシング部のコーチを務める

「うわぁ、すげえな、これが井岡か……。絶対に手の届かない存在だな」

 1学年上の井岡は春の選抜選手権で優勝し、既に注目を集めていた。攻撃的でボディやショートのパンチが巧い。リングで光り輝く井岡が眩しかった。試合運営の手伝いをしながら、井岡を見ては学んだ。

 林田のスタイルはパンチを放つと、すぐにバックステップを踏み、防御態勢をとる、菊地仕込みの基本に沿ったものだった。だが、次第に「バックステップ」に疑問が生じてきた。

「打った後に下がる必要はないのでは? と思い始めて、打ってさらに前に出たんです。近くで打った方がより効率的じゃないか、と」

 中間距離での闘いを目指す選手が多い中、林田は接近戦でショートの打ち方を徹底的に磨き、ファイタースタイルができあがった。岩佐はテクニックとパワーがあり、派手な試合が多い。三須はスピードに長けている。3人はそれぞれ特徴があり、互いをライバル視していた。なかでも勝ち気だった三須と岩佐は衝突することが多かった。

「ちょっと待て、2人とも落ち着けよ!」

 そう言って、間に入って仲裁するのが林田の役割だった。主将の三須の愚痴を聞き、岩佐をなだめて自宅まで送っていく。欠かすことのできない潤滑油のような存在だった。

 一方で、3人が同じ方向を向くと、チームはまとまり、爆発的な力を発揮する。3年時のインターハイでは、習志野高に44年ぶりとなる全国団体総合優勝をもたらした。

 林田の高校生活の最後は選抜とインターハイで準優勝、国体では優勝を飾った。

「周りを見たら岩佐が3冠で、三須はインターハイ王者なので、なんとも思わなかったですね。天狗にならずに済んだのはあの2人のおかげ。本当の仲間です」

 大学は関東リーグで1部に上がったばかりの駒澤大に進学した。校舎は渋谷から近く、少し遊んで青春を謳歌したい――そんな淡い思いもあった。

 だが、大学でのデビュー戦となるリーグ戦の1試合目。対戦相手は憧れの東農大・井岡だった。

<続く>

#2に続く
「なに、このパンチ…ヤバいな」それでも井上尚弥17歳は“無敵”ではなかった…“怪物に勝った男”林田太郎の証言「あれはスターの特性なのかな」

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