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「なぜ天心がセミファイナル?」アンチの声はあっても…世界ランカーを圧倒した那須川天心が“あの有名ボクサー”の名前を出した本当の意味
posted2024/01/28 17:02
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph by
Susumu Nagao
那須川天心の入場になると、花道の周囲にまるで蛍のように無数の光が浮かび上がった。スマートフォンで動画を撮ろうとするファンが群がっていたのだ。『Prime Video Presents Live Boxing 6』(1月23日、エディオンアリーナ大阪)のセミファイナルで組まれた那須川vs.ルイス・ロブレス(メキシコ)の121ポンド契約8回戦。試合前の盛り上がりは、この日一番と言っていいものだった。
世界ランカーを相手にワンサイドゲーム
アマチュアキックボクサー時代から那須川を見続けている筆者は、2019年7月21日に同じ大阪の会場でキックボクサーとして闘ったときの姿を思い出していた。そのときも今回と同じように、ファンが試合前から花道に群がっていたからだ。1秒でも早く絶好の撮影場所を得ようと花道にダッシュする人々を目の当たりにしたことで、“神童”の人気はホンモノだと確信し、これから一層上がっていくだろうと予想した。
案の定、その読みは的中した。那須川にとって大阪は“沸騰寸前”の舞台なのかもしれない。
リングインすると、観客席からは「天心、頑張れ」という子供の声があまた届いた。声の主は那須川が「天心ファミリープロジェクト」の一貫で招待した子供たちだった。那須川は児童養護施設などで暮らす子供たちを試合に招待し、実際に格闘技経験をしてもらう場を提供するなどの活動を以前からコンスタントに続けている。一夜明け会見で、那須川は「子供たちからの声援はメチャクチャ耳に入りました」と振り返った。
「いつもよりリングから客席の距離が近かったということもあるし、エールを送ってくれていると感じました」
ボクシング興行は入場料金がそれなりにすることも手伝い、子供の姿を見かけることは少なくなった。ボクシングをごく限られた一部のファンのためだけでなく、一般大衆に向けたものにするためにも、こういった試みは業界にとってもウェルカムだろう。
「圧倒的な差をつけて勝つ」という公約通り、試合の方は那須川のワンサイドゲームに終わった。デビュー戦は国内のトップランカー、2戦目はメキシコのナショナル王者とキャリアを重ねるごとに試練の度合いは高まっていたが、今回も同様だった。対戦相手に初めて世界ランカー(ロブレスはWBAとWBOでバンタム級14位)が用意されたのだ。