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“最強”駒大がまさかの2分38秒差で2位「箱根駅伝だけは違う」青学大・原晋監督は1カ月前に予言していた…青学大vs駒大の「決定的な差」
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byNanae Suzuki
posted2024/01/02 19:54
青学大5区の若林宏樹(3年)、2位駒大に2分38秒差をつけてゴール。青学大の往路優勝は2年ぶり
太田は箱根駅伝で滅法強い。1年生で3区、2年生で4区を担当し、ともに区間2位。22秒差でスタートした太田は、8km手前で佐藤圭汰に追いつく。10000m学生最速ランナーに対し、太田は一歩も引くことはなかった。
互いの表情を探る駆け引きが続き、そして18.2kmでサングラスを外した。スパートのサイン。すると、あの佐藤がじわりと離されていく。このタイミングで、大迫傑が「X」にこう書き込んだ。
「20kのスターと10kのスターは違うという事。作り方も含めて。」
そうなのだ。
プラットフォームが違うのだ。
11月まで10000mのスピードに磨きをかけてきた佐藤と、駅伝に焦点を合わせてきた太田。今回に限っていえば太田に軍配が上がり、そしてこの走りが往路優勝を決定づけた。
4年生にハッキリ「僕は考え方が違う」
太田に初めて取材をしたのは、彼が1年生の夏のことだった。印象に残っているのは、髪がまだ短めだったことと、そして「野心家だな」ということだった。
1年生の時の3区では、すでに実績を持つ東京国際大の丹所健に追いつかれたものの、一歩も引かずに18km過ぎに置き去りにした。相手の実績など、まったく気にしない強心臓ぶりに驚かされた。1年の冬には「すぐにでもマラソンを走りたいです」と大望を話してくれたが、ケガもあって順調とは言い難かった。それでも2年で箱根の4区を区間2位でまとめるあたり、ターゲットとしたレースでは絶対に外さない独特の感覚があるし、相手が強ければ強いほど、出力が大きくなる。
それは太田の性格の反映だと感じる。
同級生の前でも自分の大望を隠さない潔さ。
そして先輩にも自分の考えをハッキリ伝える。2023年の晩夏には、こんな話も聞いた。
「今年の4年生の先輩方は、まとまり重視です。僕は、ちょっと考えが違うんですけど」
なかなか面白い。私が「それはつまり、個々人が強くなれば、自ずとチームがベースアップするってこと?」と聞くと、苦笑しながら、
「その通りです」
と答えてくれた。
太田には「個」についての揺るぎない信念がある。そしてなにより、自分の力に対して曇りのない「信」を置く。
「太田さんの方が強かったです」
そしてその信は、相手が強ければ強いほど、力へと変換される。今回、太田は佐藤圭汰という最高の標的を追った。
舞台は10000mではない。箱根だ。それは、太田の、青山学院のプラットフォームだった。
走り終えた佐藤圭汰のコメントが、プラットフォームの違いを表現していて、興味深い。