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「怪物さえいなければ…」井上尚弥に4回負けた男の告白「井上は頭もいいし、顔もいい」井上家のライバルだった“ヤバい兄弟”が語る 

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森合正範

森合正範Masanori Moriai

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photograph byAFLO

posted2023/12/28 17:46

「怪物さえいなければ…」井上尚弥に4回負けた男の告白「井上は頭もいいし、顔もいい」井上家のライバルだった“ヤバい兄弟”が語る<Number Web> photograph by AFLO

写真は2012年7月、19歳だった井上尚弥のプロテストの日

 恒成の動きはシンプルながら打ち負けない馬力があり、拓真はスピードに豊富な経験を備えて技巧が冴える。兄たちと同じく秀でた才能が交差した。

 恒成は拓真と向き合った瞬間、人生で一度しかない体験をした。

「拓真の体が分厚くて、すぐに『わあ、勝てん』と思っちゃった。負けそうだなと。後にも先にもそんな感覚は一度もなかった」

 試合中に心が折れたのだ。リング上の恒成を見てすぐに察知した斉は呆れ返って席を立ち、たばこを吸いに行った。

 恒成はこの大会で尚弥にも畏敬の念を覚えたという。同じ全国大会に出場したのは、このインターハイが最初で最後。一番身近にいて、自分が到底かなわない兄が負ける姿を目の当たりにした。

「井上尚弥の別格感が凄かった。審判の採点もそういう感じがした。そのとき思ったのは『ずるい』ではなく、そういう先入観を作っているのは逆にすごいと。俺も尚弥さんみたいな先入観を作りたい。ならば、1試合でも負けちゃ駄目だと思った」

 闘う前から会場全体、審判にまで「尚弥が勝つ」と思わせる圧倒的な存在感。微妙ならポイントが振られる雰囲気。それは尚弥が意図せず作りあげた彼だけの空間だった。

「井上パパのほうが長けている」

 恒成は拓真と競い合いながら、対戦成績3勝2敗と勝ち越し、プロ入りした。井上兄弟とともに世界王者にまで成長した今、思うことがある。

「拓真は俺にとって特別な選手、特別な刺激を与えてくれる存在です。ライバルがいて本当によかったし、高校時代のいい宝物。でも、一番刺激を受けるのは誰かと言ったら尚弥さん。だって、一番強い選手だから。『すごい』というイメージを持たれながら、いつもそのイメージを上回る結果と内容で勝っていく。それは高校時代からずっとそうだった」

 階級こそ違うが、同じプロのリングで闘い、尚弥と同じ世界3階級制覇の称号を手にした。恒成のハンドスピード、ステップの速さは日本歴代王者の中でも屈指だ。しかし、高い潜在能力がありながら尚弥ほどの強烈なインパクトはまだ残せていない。

「俺より尚弥さんの方がすごいし、親父より、井上パパ(真吾)の方がボクシングに関しては長けている。常に井上家が一歩先を行っていると思う。だけど、俺だって現役でやっている以上、一番になりたい。『俺は俺で頑張ります』なんて言ったら終わりでしょ。尚弥さんを超えたい。俺にはそういう思いしかない」

「ひとつだけ、後悔していること」

 兄が闘ってきたライバルを、今度は弟の恒成が追いかけている。

 亮明が高校を卒業してから7年半が過ぎた。高校時代の負け数は「5」。そのうち4つが尚弥に喫したものだ。

【次ページ】 「ひとつだけ、後悔していること」

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