「昔も今も井上の何が強いのかはよくわからない。それは全部がすごいから。パンチが強い、速いとかだけじゃなく、頭もいいし、顔もいい。僕は高校生のときから当てたら1ポイントって、こだわっちゃっていたけど、彼はそうじゃない部分の完成度が高かった。3分間を通して打ってないときの体の動きだったり、ステップワークだったりを意識していたんでしょうね」

　現在もアマチュアで東京五輪の金メダルを目指している。それはあの宿敵との日々があったから。

「井上が同学年にいたから強くなれたし、アマチュアボクシングを好きになった。彼のおかげでのめり込み、負けた悔しさがあったから大学でチャンピオンになってやると思った。本当に感謝しています」

　唯一、悔いが残っていることがある。

「もうちょい仲良くなっておけばね。サインちょうだい、とか言えるのに……。あのときの表彰式。すごく後悔しています」

　そう言うと少し照れくさそうに笑った。

　田中兄弟と井上兄弟。4本の糸はほどけて、思い思いの方向に伸びている。またいつか、絡み合う日が来るのだろうか。

＜前編《まさかのスリップダウン》編から続く＞