井上を相手に迎え、昔の自分に戻った。

　WBSSでも井上が初戦、準決勝と圧倒的な内容で勝ち上がったのに対し、ドネアは初戦が相手の負傷による棄権TKO勝ち、準決勝は対戦するはずだったWBO世界バンタム級王者、ゾラニ・テテが直前で試合をキャンセルし、急造のピンチヒッターにKO勝ちというのだから、圧倒的不利を予想されたのは仕方ないと言えるだろう。

　しかし、ドネアは周囲の予想を裏切り、完璧に仕上げて井上を苦しめた。試合にかける意気込みがこれまでとは違っていた。

「今回の試合に関しては、これまでにないくらい絶好調だった。相手が井上ということもあるし、彼が持っているベルトも魅力だったし。このトーナメントに優勝することも含め、すべてが私のモチベーションになっていた。今回の試合で昔に戻った、若返ったという姿を見せられたんじゃないかと自負している」

圧倒的不利予想の前評判を覆し、最終ラウンドまで井上を苦しめたドネア　©Takuya Sugiyama

　ドネアは判定ではなく、KO勝ちを狙っていたと明言した。だからこそ悔やまれるのは9回、右ストレートで井上をグラつかせたシーンである。

「あそこで私は効かせたパンチと同じカウンターをもう一度狙ってしまった。そこが自分の犯した最大のミスだったと思う。セコンドからは倒しにいけ、ラッシュしろという指示が出ていたけど、そうはしなかった。セコンドの言うことを聞いていれば、あの状況なら、もしかしたら試合を終わらせることができたかもしれなかった」

　11回に井上の左ボディを食らってダウンし、そこから立ち上がってきた姿も印象的だった。ギブアップしてもおかしくない場面で、立ち上がっただけでなく、そこから反撃したドネアのプライドの高さには目を見張るものがあった。間違いなくあの試合の価値を高めたシーンだった。

井上の悶絶ボディを受けダウンした11R。それでも立ち上がった後は反撃の猛攻を見せた　©Takuya Sugiyama

「あのボディはかなり効いた。あそこで我慢するという選択肢もあったけど、また同じところに食らったら今度は本当にダメだとも思った。だからあえて膝をついてダウンをして、なるべく長い時間をかけてカウントを待ち、回復しようと思った。回復した後に左フックの強打を狙い、一撃で倒す。私はそちらに賭けた」

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