#990
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<誇り高き敗者が語る> ノニト・ドネア「一撃必中に賭けていた」

2019/11/15
やはり5階級制覇は伊達ではなかった。圧倒的不利の声をよそに井上を追い詰めてその力を示した偉大なるレジェンド。その敗戦の弁もまた、矜持に満ちたものだった。(Number990号<誇り高き敗者が語る>ノニト・ドネア「一撃必中に賭けていた」)

 日本を愛し、メディアに対しても常に気さくに応じてきたドネアは、ベルトを失った試合翌日のインタビューにも快く応じてくれた。約束の時間通り、ホテルのレストランに現れると、まず聞いたのは、井上と接戦を演じたことをドネア自身がどう評価しているのかだった。

「もちろんWBSSで優勝するためにリングに上がって、負けてしまったことに残念な気持ちはある。一方でこの試合に向けて一生懸命練習して、自分が今持っているすべてをリングの中で出し切れた。そういう意味ではがっかりしている気持ちと、誇らしい気持ちの両方がある」

 ドネアがこれまでに世界のリングで残してきた実績は井上を上回っている。世界的なスーパースター、マニー・パッキャオに次ぐフィリピンで2人目の5階級制覇王者であり、ワンパンチで相手を沈める強烈なパンチからついたニックネームはフィリピーノ・フラッシュ(閃光)だった。

 一方で、36歳という年齢、最近の試合でのパフォーマンスから「盛りを過ぎたアンダードッグ」という見方があったのも事実だ。試合会場で何度も流されたドネアのKO映像は、アメリカの老舗ボクシング雑誌、リング誌の年間KO賞に輝いたビック・ダルチニアン戦とフェルナンド・モンティエル戦。ともに文句なしのKOながら、それぞれ12年前と8年前の試合だった。

井上を相手に迎え、昔の自分に戻った。

 WBSSでも井上が初戦、準決勝と圧倒的な内容で勝ち上がったのに対し、ドネアは初戦が相手の負傷による棄権TKO勝ち、準決勝は対戦するはずだったWBO世界バンタム級王者、ゾラニ・テテが直前で試合をキャンセルし、急造のピンチヒッターにKO勝ちというのだから、圧倒的不利を予想されたのは仕方ないと言えるだろう。

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photograph by Takuya Sugiyama

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