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「僕は予備兵士」ウクライナ代表スケーターは記者陣に“ある言葉”を伝えた…練習場所はキーウのショッピングモール「現状を伝える義務がある」
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph byAkiko Tamura
posted2023/12/05 11:05
ウクライナ代表としてGPエスポー大会に出場したイヴァン・シュムラッコ
シュムラッコの英語はそこまで流暢ではないが、限られた単語を駆使しながら的確に自分の伝えたいことを言葉にしていく。
「でも出場を決意したのは、自分がGP大会で唯一のウクライナを代表する選手だからです。僕を見ることによって、世界の人たちがウクライナのことを考えてくれるように」
「頭上をロケット弾が飛んでいく」
ロイター通信によると、ロシアの軍事侵略が始まった2022年2月から現在までに、ウクライナでは少なくとも4つのアイスリンク施設が破壊されたという。
「現在はキーウは小康状態で、比較的ノーマルに生活はできています。でも戦闘前線は国の東側にあってそこでは兵士が毎日国を守るために戦っているんです」
キーウでも空襲警報は頻繁に発令され、頭上をロケット弾が飛んでいくのを目にすることもあるという。
「実際に体験していない人たちにとっては、想像するのも難しいことだというのは理解しています。でも僕たちにとって、戦争は現実のこと。目の前で実際に起きていることなんです」
「僕は予備兵士でもあります」シュムラッコが考える義務
今季のプログラム、SP、フリー共に自分で振付をした。どちらも、現在のウクライナの状況を表現したものなのだという。
「僕は予備兵士でもあります。でも出国が簡単に許可されたのは、僕が国を代表するアスリートだからです。だから世界の人たちに向けて、ウクライナの現状を伝える義務があるのです。僕たちはこの仕掛けられた侵略戦争に勝たなくてはなりません」
10月にハマスがイスラエルを攻撃したことが発端で始まったガザの戦闘で、世界の関心は中東へと移り、ウクライナは忘れられつつある。米国内でも、ウクライナへの軍事支援に対する疲弊感が積もっている印象は拭えない。そんな状況を理解しつつも、シュムラッコは静かな言葉で焦燥感を表現し続けた。
「ロシアが負けたら、彼らの兵士たちは家に帰るだけです。でもウクライナが負けたら、僕たちはみんな帰る家を失うんです。だからこの戦争は絶対に勝たなくてはなりません」