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「僕は予備兵士」ウクライナ代表スケーターは記者陣に“ある言葉”を伝えた…練習場所はキーウのショッピングモール「現状を伝える義務がある」
posted2023/12/05 11:05
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph by
Akiko Tamura
フィンランドで開催されたGPシリーズ5戦目、エスポー大会では観客席にウクライナの旗が掲げられた。今季のGPシリーズで唯一のウクライナ代表選手、イヴァン・シュムラッコの演技が終了すると、観客たちは旗をふって惜しみない拍手を浴びせ続けた。
「本当はこの週末は、ポーランドのワルシャワ杯に出場する準備をしていました」
演技後、ミックスゾーンで記者たちに囲まれたシュムラッコは、こう語り始めた。ワルシャワ杯はチャレンジャーシリーズの一つで、世界ランキングの上位者のみが招聘されるGPシリーズより1ランク下のBランク国際大会である。
「今シーズンのぼくの最大の目標は、その大会で良い成績を収めることだったんです」
だがGPエスポー大会に直前に欠場者が出て、シュムラッコに出場の打診が来たのは出発の週の月曜日のことだったという。
「時間的余裕がなかったけれど、1時間だけ考えてエスポーに来る決意をしました。キーウを出てからここにたどり着くまで、バスなどを乗り継いで1日半かかりました」
練習場所はキーウのショッピングモール
この12月で22歳になるシュムラッコはウクライナ選手権で4年連続の優勝を果たし、2022年の北京オリンピックで24位になった選手である。だがオリンピックから帰国した直後、故郷のキーウはロシア軍による爆撃を受け戦火に包まれた。昨シーズンはより良いトレーニング拠点を求めてフランスやドイツなどを転々としたが、今季からウクライナに戻った。
「海外ではトレーニングはできたけれど、心の平安が得られなかったんです。誰も、僕に国に戻ってはいけないなどと指図することはできません」
現在キーウのショッピングモール内にあるリンクで、一般滑走の時間にトレーニングを続けているという。
「この大会に出場したのは、勝つためではありません」
このGPエスポー大会では12人中8位だった。
「この大会に出場したのは、勝つためではありません。カオ(三浦佳生)やシュン(佐藤駿)、コーシロー(島田高志郎)たちのような選手たちと競うためには、ショッピングモールのリンクで一般滑走中にトレーニングをしているようでは、とても準備はできません」