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さらばフランツ・トスト…角田裕毅が最終戦アブダビGPでF1での育ての親に披露した成長の証と感謝のしるし
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byMasahiro Owari
posted2023/12/01 11:02
最終戦アブダビGPで角田がかぶったヘルメット。頭頂部にトスト代表との幸せな時間を捉えた写真がプリントされている
「フランツはチームのだれよりもチームのことを考えていました。おそらく、自分の人生よりもチームを優先して戦ってきた人です。フランツの温かくも厳しいサポートがなかったら、いまの僕は存在していなかったかもしれない。本当に感謝しています。その恩に報いるために、今シーズンの最終戦を終えたとき、フランツが笑ってチームを去ることができるようなレースをやり続けたい」
その思いを抱いて戦い続けた角田にとって、アブダビGPはトスト代表と戦う最後の一戦となった。トスト代表とのツーショットが頭頂部にプリントされた特製ヘルメットをかぶって臨んだ予選では、F1での自己最高位となる6位を獲得した。
日本人のF1での予選最高位は2位。2004年ヨーロッパGPの佐藤琢磨と12年ベルギーGPの小林可夢偉だ。これに片山右京、中嶋一貴 (ともに5位)が続き、角田の6位は中嶋悟、鈴木亜久里と並ぶ5位タイ記録となる。
角田が見せた成長の証
決勝レースでも角田は魅せた。多くのドライバーが2ストップ作戦を採用する中、チャレンジングな1ストップ作戦を選択。コンストラクターズ選手権7位のウイリアムズを逆転すべく選択した果敢な戦略は結果的に功を奏さなかったが、角田はF1キャリア初のラップリーダーを記録するなど、持てる力を出し切って8位でチェッカーフラッグを受けた。その走りは、世界中の多くのファンを魅了し、ドライバー・オブ・ザ・デーに初めて選出されたほどだった。
その角田の走りをだれよりも喜んでいたのが、トスト代表だった。チームが選択した1ストップ作戦には納得していない様子だったが、角田の成長を見届け、チーム代表としての最後のレースを終えた。
レース後、角田はトスト代表にプレゼントを渡した。それは、2人の幸せな記憶が凝縮した世界にたったひとつしかないヘルメットだった。