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「鈍臭いのはずっと変わらない」元アイドルの女子プロレスラー・神姫楽ミサが取材中に流した“涙の意味”「勝ちに貪欲でいたい」 

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橋本宗洋

橋本宗洋Norihiro Hashimoto

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photograph byNorihiro Hashimoto

posted2023/11/09 17:01

「鈍臭いのはずっと変わらない」元アイドルの女子プロレスラー・神姫楽ミサが取材中に流した“涙の意味”「勝ちに貪欲でいたい」<Number Web> photograph by Norihiro Hashimoto

JTO所属の女子プロレスラー神姫楽ミサ

「プロレスが全然楽しくなかったです」

 2020年11月、念願のレスラーデビュー。TAKAからは1回きりの試合だと伝えられた。

「自分としてはやりきったつもりだったんですけど、周りからは“酷かった”って。映像を見ると確かに酷くて」

 不思議なことに2戦目以降も試合が組まれる。試合のたびに自信を失った。

「代表は質問すると全部、自分でやって見せてくれるんです。細かい動き一つひとつ、なんでも具体的に教えてくれる。でもなかなか上達しなくて。試合後は毎回、怒られてました。勝てないし怒られるし、自分のせいで大会のクオリティが下がってると思って、プロレスが全然楽しくなかったです」

 こんな自分を応援してくれる人なんていないと思っていた。プロレス界には、選手が会場のグッズ売店に立って購入者にサインや写真撮影のサービスをする団体もある。だがJTOでは毎回、全員が売店に立つわけではない。ファンと接する機会が比較的、少ないのだ。

 試合中も観客の存在を感じることができていなかった。アドバイスをくれたのはフリーのベテラン、山縣優だ。

「“リング上から一回、お客さんを見てみな”って。それまでの私は焦るばかりで相手のことしか見えてなかったんです。実際にお客さんを見てみたら落ち着きました。目が合うと安心するというか」

「応援されている」というモチベーション

 プロレスの試合は対戦相手とだけするものではなかったのだ。自分の試合に興味を持つ人はいる。応援してくれる人もいる。そのことが実感できた。もう一つの転機は、アイスリボンなど他団体への参戦だ。

「JTOは始まったばかりの団体なので、一つ上の先輩しかいないんです。いろいろ教わるというよりみんなで切磋琢磨する感じで。他団体さんだといろんな世代の人がいて、男子の闘い方がベースのJTOとは違うスタイルも教わりました。初めて先輩に試合を褒めてもらったのはシードリングさんに出場した時です。びっくりしたし嬉しかった」

 アイスリボンに参戦して、ファンと売店で会話をすることも増えた。応援されているという感覚が強まり、それがモチベーションになった。

「自分もプロレスファンだったので、応援してる選手が負けた時の気持ちが分かるんです。私が負けると、ファンの人たちがどんな気持ちで帰ることになるのか。それを想像すると絶対に勝たなきゃって思います。売店に来てくれる人たちは、顔が思い浮かぶくらいなので」

 技術的にはまだまだだと自分でも思う。でも気持ちでは誰にも負けたくない。

「キャリアを積んでいくと後輩をバックアップするような場面もあると思うんですけど、最後は自分が勝ちたい。ずっとですね。いつまでも勝ちには貪欲でいたいです。やっぱり勝つ姿を見てほしくて」

【次ページ】 インタビュー中にこぼれた“涙の意味”

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