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「まさか涙を流してもらえているとは」宮原知子、1日限りの“現役復帰”でチームジャパン優勝! 坂本花織も「まばたきを忘れるくらい…」
text by
野口美惠Yoshie Noguchi
photograph byAsami Enomoto
posted2023/10/15 17:01
ジャパンオープン、1日限りの“現役復帰”で見事な演技を披露した宮原知子
『ロミオとジュリエット』の曲がかかると、宮原の身体が氷に吸い付くように動き出す。空気感が変わった。
演技前半では、 “宮原らしい”美しいステップシークエンスを披露した。1つ1つの動きが正確で、なめらかで、足さばきに気品がある。現役時代の持ち味を、さらにブラッシュアップした耽美な滑りである。「愛と情熱と宿命がテーマ」と語った、「愛」の切なさを観客に届けた。
演技後半のジャンプでは、決闘のシーンを展開。ジャンプよりも演技に目がいくほどの白熱の演技力と、多彩なステップが詰め込まれている。その総合力は、プロとしての新たな力を示した。
そして最後のコレオシークエンスで、“表現者としての覚醒”を、観客に突きつけた。全身を激しいムチのようにしならせ、ジュリエットが憑依したかのように愛の悲しみを演じる。演技という言葉では足りないほどの世界観だった。
チームジャパンの3人から賛辞
氷に倒れ込むフィニッシュポーズから、起き上がり、観客に手をふる。その照れたような笑顔は、いつもの宮原だ。
新しい何かを体験したときの、ムズムズとするような感動が、観客と宮原を包んだ。
「練習してきた振り付け通りの動きではカバーできないくらいの壮大さを感じて、自分の身体がもっと大きく表現したいと思いながら、曲に入り込んで滑ることが出来ました。世界観を表現できたことが嬉しいです」
滑り終えた宮原を待っていたのは、興奮したステファンと、涙を流す島田、そして敬意のまなざしで拍手する友野。3人に囲まれて得点を待つと、123.22点と、現役に肩を並べる高得点。納得したようにうなずいた。
会見では、チームジャパンの3人から宮原への賛辞が続いた。島田が言う。
「知子ちゃんがスタートポジションについた時の表情の時点で、涙腺ゆるんで、うるうるしちゃって。“ロミジュリ”の世界観を表現していく体の動き、内から出てくる感情っていうものを、今回すごく直に感じられて、その美しさに涙がワーッとなってしまいました。そのお陰で、朝から抱えていた緊張とか嫌なものを全部流せて、すっきりして自分のフリーに臨むことができました」
「1日現役がもったいない。まだまだ見てたい」
それを聞いた宮原が思わず苦笑い。