ところが、笠松で12戦10勝2着2回というパーフェクトな戦績をおさめ、3歳時の1988年、中央に移籍すると、一気にスターダムを駆け上がる。河内洋を主戦騎手とし、中央の重賞を6連勝（南井克巳も騎乗）。同年の天皇賞・秋の「芦毛対決」でタマモクロスの2着に敗れ、つづくジャパンカップも3着に終わったが、岡部幸雄を背にした有馬記念でGI初制覇を遂げた。

1988年の有馬記念。「3度目の正直」でタマモクロスを振り切り、GI初制覇を遂げたオグリキャップ　©JIJI PRESS

ひたすら懸命に走るオグリに、多くの人が魅了された

　翌1989年、脱税疑惑のあった馬主から、新たな馬主に金銭トレードされる。春は脚部不安のため休養し、9月17日のオールカマーで南井を背に復帰して、1着。そこから中2週で、10月8日のこのレース、第40回毎日王冠に駒を進めてきた。

　オールカマーから天皇賞・秋に直行するのではなく毎日王冠を使うのは、新たなオーナーが高額なトレードマネーの穴埋めをするためではないか、とも言われた。だが、オグリは、人間の思惑やエゴをよそに、ただひたすらゴールを目指して懸命に走りつづける。そうして多くの人々の心を動かしていくのである。

　この毎日王冠に登録してきた馬のメンツがまたすごかった。

　前年の覇者でもあるオグリをはじめ、まずは、この年に大井から中央入りし、天皇賞・春と宝塚記念を勝っていたイナリワン。これがオグリとの初対決となる。

イナリワンが優勝した1989年の天皇賞・春。鞍上はのちに「平成の盾男」と呼ばれる武豊だった　©JIJI PRESS

　そして、オグリと同世代で、牝馬三冠馬メジロラモーヌの半弟という超良血のメジロアルダン。前走のGII高松宮杯でバンブーメモリー以下を完封していた。こちらもオグリとは初顔合わせだ。

　さらに、87年の旧3歳王者で、88年秋には重賞3連勝でマイルチャンピオンシップを制したサッカーボーイ。

　そのほか、重賞を2勝し、天皇賞・秋で2、3着と好走歴のある逃げ馬レジェンドテイオー、前年の東京ダービー優勝馬で、これが中央移籍初戦となるウインドミルなどの名もあった。

　サッカーボーイは脚部不安のため回避し、出走馬は8頭。1番人気は単勝1.4倍のオグリキャップ。2番人気は名手・岡部幸雄が惚れ込んだメジロアルダン。3番人気は、このレースから柴田政人を鞍上に迎えたイナリワン。これら3頭が単勝10倍以下だった。

【次ページ】　オグリとイナリワンによる息もつかせぬ叩き合い