守備に難のあったチャーリー・マニエルを放出したこともヤクルトにとっては痛手だった。2年目のデーブ・ヒルトンも徹底的なマークにあい、前年のような成績は残せなかった。広岡と球団社長との折り合いも悪かった。さまざまな要因が積み重なり、79年シーズン途中、志半ばで広岡はユニフォームを脱いだのだった。

「この年、僕は8回、9回限定の抑え役を任されました。すごく調子はよかったんです。でも、先発投手が総崩れで、チームとしては勝ちパターンに持ち込むことができないから、なかなか僕の出番はありませんでした。ずっとブルペンで投げているうちに、僕自身の調子も落ちていっちゃって……。この年は、いろいろとうまくいかないシーズンでしたね」

　こうして、広岡が夢見た「常勝軍団」への道は、あっという間に崩れ去ってしまったのである。

広岡達朗が夢見た「常勝軍団」がヤクルトで実現することはなかった　©BUNGEISHUNJU

「勝つための手段、そのための練習方法を教わった」

　その後、右肩痛に苦しみながらも、井原は1984年まで現役を続けた。15年間のプロ生活において、最初にして最後の優勝、日本一を成し遂げたのが78年、広岡監督の下で過ごした1シーズンのことだった。彼が広岡から学んだことは何か？　井原が口にした答えはシンプルなものだった。

「どうやってアウトをとるか、いかに走者を次の塁に進めないか。そんなことを徹底的に教えてもらった気がしますね」

　井原は淡々と続ける。

「本当にいろいろなことを教えてくれました。当時は実感していなかったけれど、広岡さんは僕たちに勝つための手段、そのための練習方法を教えてくれました。それは、自分が引退して、少年野球の指導をしたときに実感しました。気がつけば、広岡さんに教わったことを教えているんです。広岡さんからはあらゆることを教わったから、何でも教えられる。何の疑いもなく、教えることができるんです」

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