濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
刑務所を出た母親は「別人でした」 覚せい剤で逮捕、そして再会…どん底だった外枦保尋斗(23歳)が“1分間格闘技”BreakingDownで叶えた夢
posted2023/09/16 11:04
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
Norihiro Hashimoto
不良たちの舌戦や乱闘が注目される“1分間格闘技”BreakingDown(ブレイキングダウン)だが、プロデューサーの朝倉未来によると大会の軸は3つだという。
一つは一般的なイメージである「不良」。もう一つは「お笑い担当」だ。代表格は、10人相手にケンカしたと豪語するもオーディションでのスパーリングで失神KO負けした「10人ニキ」。弱い、勝てないということも“個性”として人気につながるのがブレイキングダウンだ。とにかく目立ってインパクトを残すことが大事なのである。 最初は弱いからこそ、強くなる過程がドラマにもなる。
そしてもちろん「実力派」もいる。1分間ノンストップで殴り合うという大会のコンセプトを体現し、プロ団体への参戦も期待されるような選手たちだ。
外枦保尋斗(そとへぼひろと)も、ブレイキングダウンが誇る実力派の1人。出場選手を決めるオーディションに参加する前から、プロのキックボクサーとして活躍していた。
すでにプロなのに、なぜブレイキングダウンなのか。そこには理由があった。ブレイキングダウンはオーディション配信がYouTubeでも日本トップクラスの再生数となる。その知名度を使って実現したいことがあったのだ。それは母親に会うことだった。
「お母さんが薬物を…」自身の通報で母が逮捕
外枦保の母は薬物に溺れ、逮捕されて刑務所にいた。警察に通報したのは、長男である外枦保自身だった。
幼い頃に両親が離婚し、外枦保は祖父母に育てられた。祖母が亡くなると父と生活。だが父には暴力を振るわれる。格闘技を始めたのは「お父さんをぶっ飛ばすため」だった。中学生になると実母と連絡が取れた。妹がいることもその時に知った。母と暮らすようになり、母に新しい恋人ができると再び父との生活。それに耐えきれず、外炉保は母を頼った。地元を出て神奈川に移ったのはこの時だ。
しかし、ここでも人生は平穏にならなかった。母が覚せい剤に手を出したのだ。その姿を家族に見られてからは、使用するのを隠そうともしなくなった。
「お母さんが薬物をやっています。連れて行ってください」
見るに見かねて警察に通報した。母とは絶縁して格闘技に打ち込む。そこに妹から連絡がきた。母がまた逮捕されたという。息子の目の前で逮捕されても、薬物と縁を切ることができなかった。
実刑判決を受け服役。どの刑務所にいるかも分からない。外枦保という珍しい名字も含め、世に出れば母も知ってくれるかもしれない。注目度の高いブレイキングダウンで勝つことで、励ますこともできるはずだ。
「親子でどん底の人生から這い上がりたいです」
オーディションで外枦保は訴えた。初戦は鮮やかなKO勝ち。マイクを握ると涙声で言った。
「母ちゃん、勝ったよ!」