濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
刑務所を出た母親は「別人でした」 覚せい剤で逮捕、そして再会…どん底だった外枦保尋斗(23歳)が“1分間格闘技”BreakingDownで叶えた夢
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2023/09/16 11:04
「BreakingDown9」にて勝利を収めた外枦保尋斗。出所した母との現在について聞いた
刑務所から出てきた母
2戦目も勝利した外枦保は前途洋々に思えたが、3戦目でKO負けを喫してしまう。
「考えすぎというか、集中できていなかったのかもしれないです」
外枦保はそう振り返る。ブレイキングダウンで名が知られた結果、知り合いを通して母が北海道の刑務所にいることが分かった。さっそく手紙を書いたが、宛先不明で戻ってきてしまう。母は出所していたようだった。そこまでは分かったが、会うことは叶わなかった。
「その時はまだ、お母さんの“状態”がよくないということでした」
母が刑務所から出てきた。それなのに会うことができない。宙ぶらりんの気持ちのまま闘って、外枦保はノックアウトされた。
「僕は選手としてはブレイキングダウンには向いてないんです。相手の攻撃をもらいながら気持ちを作っていくタイプ。1分間しか時間がないのにスロースターターで。その弱さが出ました」
母との再会…見た目は「別人でした」
再起を期す外枦保に朗報が舞い込む。母の状態がよくなり、会えることになったのだ。ドキドキしながら再会した母は「いい意味で別人でした。見た目から変わってました」。
薬物に溺れていた頃の母は、痩せ細って「ガリガリ」だった。しかし今は「体型からして健康的で。最初はお母さんだと分からないくらいでした。まずそこが嬉しかった。安心しました」。
再会したら、警察に通報したことを謝ろうと思っていたそうだ。しかしそうはならなかった。
「どんな感じで話せばいいんだろうと思ってたんですけど……なんかもう、ふざけてばかりっていうんですかね。他愛もない話、楽しい話ばかりでした。昔からそうなんです、友だちみたいな親子で」
「前向きにやってますね、お母さん。社会復帰を目指して」
顔を合わせたら、何も気にすることはなかった。一瞬で昔に戻ったのだ。母が薬物を始める前の家族に。試合で負けたことに関しては「喝を入れられました。そういうところは変わってなかったですね」。
今も別々に生活しているが、週末には会える状況にある。
「前向きにやってますね、お母さん。社会復帰を目指して、ゆくゆくはこういうことがしたいという目標もある。思ったより状態もいいです。といっても何があるか分からない。すぐに連絡が取れるというのも大事ですね」
ブレイキングダウンでの大きな目標が達成された。ようやく、晴々とした気持ちで格闘技に取り組むことができる。自分のためだけの闘いではないという思いも強くなった。
「僕と同じ境遇の人たちに勇気を持ってもらえるような試合がしたい。前以上にそう思います」