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「あの時から後悔することばかりで…」花巻東・佐々木麟太郎が涙した日 “高校通算140本塁打”怪物スラッガーが目覚めるまでの503日
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byJIJI PRESS
posted2023/08/09 11:03
初戦の宇部鴻城戦、4回裏無死二塁から先制の適時打を放つ佐々木麟太郎。甲子園での初打点となった
佐々木は言った。
「自分のバッティングスタイルとしましてはセンター方向を意識しているので、そのなかで出たヒットだと思っています。チームの勝利を目指して質の高いバッティングをしていくなかで、甘いボールを仕留めることが自分の役割だと思っています」
おそらく、佐々木は総体的なコメントとして発したのだろうが、少なくともこの試合で捉えた3本のヒットは、決して甘いボールではなかった。むしろ、厳しいとさえ判断できるコースを逆方向へ打ち返した。
自らのスタイルに忠実に。いくら周りからホームランを望まれようと、打席での心の芯はブレていない。
2度目の甲子園。佐々木麟太郎というバッターの幹は逞しくなった。
昨年のセンバツ甲子園で流した「涙」
宇部鴻城と試合した8月8日から503日前、2022年3月23日。
佐々木はこの地で涙した。
高校2年のセンバツ。すでに56本のホームランを積み重ねていた佐々木は、大阪桐蔭の前田悠伍、広陵の真鍋慧、九州国際大付の佐倉侠史朗と並び「2年生ビッグ4」と呼ばれ、相手から警戒される存在だった。
そして、初戦の市立和歌山で佐々木は相手の術中に屈した。相手エースで注目の右腕でもあった米田天翼の、「当ててもいいくらいの気持ちで」と投げ込まれる140キロ超えの内角ストレートに、2三振を含む4打数ノーヒットと完璧に封じ込まれたのである。