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「あの時から後悔することばかりで…」花巻東・佐々木麟太郎が涙した日 “高校通算140本塁打”怪物スラッガーが目覚めるまでの503日
posted2023/08/09 11:03
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph by
JIJI PRESS
高校通算ホームラン、140本。
花巻東の注目のスラッガー、佐々木麟太郎が夏の甲子園で打席に立った。
第1打席は1回2アウト、ランナーなし。
宇部鴻城のサイドスロー右腕、浅田真樹の内角132キロのストレートに佐々木のバットが反応する。放たれた鋭い打球は、甲子園の黒土を這うようにレフトへと到達した。
これが、佐々木にとって甲子園での初ヒットとなった。さらに4回の第2打席では、ノーアウト二塁のチャンスで内角低めのスライダーをレフトへ運び、初打点も挙げた。
第3打席となる5回の2アウト二塁の場面では申告敬遠で出塁し、7回2アウト一塁の第4打席は相手の2番手、松成乃馳の内角高め139キロのストレートをライナーで弾き返し、サード強襲のヒットを見舞った。
3打数3安打1打点、1四球。
大会屈指のスラッガーと呼ばれる男の、面目躍如である。花巻東の初戦突破に貢献した佐々木は、試合後、お立ち台でのインタビューでいつものように殊勝に振舞っていた。
「ホームランよりチームの役に立てるバッティングを」
「バッティングの内容や質にはこだわっていますけど、結果は気にしていません。チームの勝ちに貢献できてよかったです」
期待されている豪快なアーチについてもそうだ。「ホームランより、チームの役に立てるバッティングをするだけ」といった趣旨の回答を、佐々木は甲子園でも貫いていた。
初志貫徹。
この試合、言葉ではなくバットでもその姿勢をやり抜いていた。左バッターでありながら、3本のヒット全てが逆方向への打球だったことが、なによりの証明である。