井上の進路選択によって他の選手も志望校を変更

　攻守にわたるビッグプレーによって球史に名を刻んだ準決勝のヒーロー井上は中学時代、地元のボーイズリーグ大東畷でプレーしていた。ピッチャーとしても能力を発揮し、この当時から別格の存在だった。その井上が「歩いて通える」と地元に新設された大阪桐蔭を選んだことで、同世代の有望選手の進路状況が大きく動く。京都屈指のスラッガー玉山、和歌山ナンバーワンの和田、そして井上の幼馴染で大東畷からボーイズ日本代表でともに世界大会制覇を経験した萩原も府外の強豪校から大阪桐蔭に志望校を変更した。

　彼らの入学に奔走したのは部長の森岡正晃だった。監督の長澤とは対照的に細かいところに気が付きあくせく動くことを厭わないタイプで、選手の兄貴分的存在。森岡は高校3年時、大阪大会準々決勝で近畿大学付属に敗れている。2学年上は西田真二－木戸克彦の大型バッテリーでPLにとって初めての全国制覇を果たした。1学年下はエース西川佳明と主砲・吉村禎章でセンバツ優勝。森岡は栄光の狭間で大きな挫折感を味わう。

　近畿大学では2年から学生コーチに。ケガの影響もあったが、大学球界の名伯楽・松田博明監督は、森岡の指導者としての資質を見抜いていた。大阪産業大学高校野球部監督に転身していたPL時代の恩師・鶴岡泰の勧めもあって教員免許を取り、1985年に大学を卒業すると大東校舎の社会科教師に着任した。

名刺を出しても“どこですか”と言われ続ける

　大阪桐蔭創部1年目、森岡は25歳だった。監督というにはまだ若かろうとの学校側の判断で野球部長に就任した。高校野球における部長とは責任教師。「教頭先生の代わりにベンチに座る存在」が森岡の性に合っていた。

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