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「必ず戻ってくるからな」 坂井瑠星(26歳)が“2つのダービー”の後に語ったこととは? ストイックすぎる騎手は「見ているところが高い」
text by
片山良三Ryozo Katayama
photograph byAFLO
posted2023/07/30 17:03
海外修業を経て、国内GIに海外競馬など幅広く活躍する坂井瑠星
半年間の予定は1年間に延長
それは強がりでもなんでもなく、当初は半年間だった修行の予定を、自らビザを書き換える手間をかけて都合1年間に延長。オーストラリアを拠点としてドバイに飛ぶなど、得難い経験をたくさん積んだ。
最終的には南部アデレードの有力調教師、ライアン・バルフォーと専属契約を交わすまでになり、主戦騎手として16勝を挙げて帰ってきた。
一旦帰国した後も、自主研修の形でアメリカや香港に軽々としたフットワークで渡った。騎乗技術とともに、英語というコミュニケーションツールを手に入れた瑠星は、二十歳ソコソコで世界中を自分の活躍のフィールドとすることに成功したのだ。
2度目のダービーでは落馬も「前向きに考えます」
今年もすでに4カ国に出向いて精力的に活動中。5月にはアメリカ競馬の祭典、ケンタッキーダービーにコンティノアールで出場予定だったが、檜舞台への挑戦は叶わなかった。現地での最終調整で左後肢の歩様が乱れ、出走取消となったのだ。
「アメリカではまだレースでの騎乗経験がなくて、最初の騎乗が最大のレースになると意気込んでいました。出走取消は、馬の状態の問題ですから仕方がありません。武さんには『あの場所の最高の雰囲気は味わうだけでも価値があるから』とアドバイスをもらいましたが、本当にその通りでした。騎乗手当が300万円ほど出ることにも驚きました。もちろん僕には出ませんでしたが、来なければわからないことがたくさんあった。(開催場所の)チャーチルダウンズ競馬場には、必ず戻ってくるからなと誓って帰ってきました」
その後の日本ダービーは今年が2度目の挑戦だった。ところが、騎乗馬ドゥラエレーデがスタート直後に大きく躓いて落馬。大きなケガはなかったものの、勝負服が芝生の緑色にまみれただけでレースは終わった。
「スタート直後の落馬は3年ぶりぐらい。意識していないつもりでも、気持ちが馬に伝わったのかもしれないと思うと申し訳なかったです。ダービーであれをやった騎手は過去にお二人いて、どちらも数年以内にダービーを勝ったそうですね。僕も前向きに考えます」
その二人とは、タカツバキ(1969年)の嶋田功と、マルチマックス(1993年)の南井克巳。嶋田は4年後にタケホープで勝ち、南井は翌年にナリタブライアンで勝った。
ストイックに騎手の道を突き詰める男は、データまで知り尽くす競馬オタクでもあった。
坂井瑠星Ryusei Sakai
1997年5月31日、東京都生まれ。2016年にデビューし、通算348勝(7月10日時点)。'22年秋華賞でスタニングローズに騎乗しJRA・GI初制覇。これまでにGI4勝(地方1勝含む)。