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「米ドラ1蹴ってソフトバンク入り」スチュワートの獲得は失敗…なのか? “激ヤセ”経て5年目、ついに覚醒しそう…コーチが語る「なぜ出遅れたか」
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph byJIJI PRESS
posted2023/07/12 11:39
2019年6月、ソフトバンク入団記者会見時のカーター・スチュワートJr.
その後しばらく、三軍に足を運ぶたびにスチュワートJr.の「異様さ」が目に留まるようになった。キャッチボールでは不自然に映るほどクイックモーションの動作を懸命に繰り返していた。とにかく生真面目な性格。だがそのマジメ過ぎが災いし、チームメイトにジョークを飛ばされてもイマイチ反応が薄い場面を何度も見かけた。振り返れば、あの頃のスチュワートJr.は、プロのアスリートとは思えないほど痩せこけていた。食にも苦労していたと聞く。異国の地にやってきて様々なストレスを抱えていたのだろう。
コーチの後悔「日本野球に適応させようとし過ぎて…」
現在、一軍投手コーチを務め、当時はファーム施設でリハビリ組を指導していた齋藤学はこのような見方をしていた。
「1年目から十分に通用する力は持っていたと思います。でも、日本の野球に適応させようとし過ぎて全てを狂わせてしまった。それが大きな出遅れの原因じゃないかなと思います。長所を伸ばしたうえで悪い部分を直させればよかった」
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結果だけを見れば育成の失敗だが、そのように断じて批判するのは間違っていると思う。先述したようにスチュワートJr.の来日は前例のないことだ。球団や指導者にとっても新しいチャレンジだった。その時々の最善を考え、逸材の右腕に向き合っていた。超大物だからといって腫れ物に触るような感じでもなかった。
そもそも選手育成の手法に100点はない。仮に短所に目をつむっていたとしてスチュワートJr.が大成したと限らないし、今後また別の外国人プロスペクトが来日したときにそのように育成しても成功するとは限らない。
ただ、ひとつの経験を得たことはソフトバンクのみならず日本球界の大きな財産となったに違いない。だから一部のネットやSNSなどで見られる「間違っていた。今後こんな選手を獲る必要はない」といった声には声を大にしてノーと言いたい。