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「ここまでやるのか」スターダム“12人金網脱出マッチ”の衝撃…高度な空中戦に林下詩美の大流血も「ネジがぶっ飛んでる奴ばっかだな!」
posted2023/06/29 17:00
text by
原悦生Essei Hara
photograph by
Essei Hara
「金網」の概念が変わった、と言ってもいいだろう。スターダムの金網マッチはデスマッチではない。ダイナミックな空中戦の要素がある。従来の「金網=デスマッチ」という構図は、高度な空中戦という言葉に置き換えることさえ可能なほど進化を遂げていた。
6月25日に国立代々木競技場第二体育館で行われた6対6の12人による金網戦には、じつにさまざまな要素が盛り込まれていた。「いいものが見られたな」「ここまでやるのか」と率直に思った。
金網から脱出した方が勝ち、というエスケープ方式の金網マッチを、これまで筆者は面白いと思ったことはなかった。半世紀近くも前の1975年、ニューヨークからの映像でブルーノ・サンマルチノとイワン・コロフの試合を見た。それは思い描いたデスマッチとはかけ離れたものだった。それからというもの、「エスケープ」と聞いただけで退屈さが先行した。それらにラッシャー木村vs.ドクター・デスのような凄惨な血の海絵巻、あるいはギロチンドロップで有名なブル中野vs.アジャ・コングのような驚きを感じることはなかった。
レトロな金網によって生まれた「新鮮な空間」
クイーンズ・クエスト(QQ)の林下詩美、上谷沙弥、AZM、レディ・C、妃南、天咲光由組と、大江戸隊の刀羅ナツコ、鹿島沙希、スターライト・キッド、渡辺桃、琉悪夏、吏南組によるエスケープ式の金網戦は、最後にリングに残された敗者がそのユニットから離脱するという申し合わせの下に行われた。
過去、この種の全面戦争で大江戸隊が負けたことはない。
この金網戦では凶器の持ち込みが許容されたが、それらが凄惨な流血への手段ではないことは感じ取れた。むしろ、トップロープやコーナーより高い金網のてっぺんからの様々なダイブが新鮮な驚きを呼んだ。
AZMはキッドに向かって両足での踏みつぶしを金網上から敢行し、キッドもまさかのケブラーダ式の宙返りスイシーダ(ムーンサルト)をレディ・Cに放った。金網そのものは新しい金網ではなく、かつて見た古いものだ。そんなレトロな金網が新鮮な空間を作り上げるのにこんなに役に立つものなのか。
恐れを知らないというのはこのことだろう。