「同期ということもあり普段のキャッチボールの相手が井川だったんですよ。ワンステップで『ドバーン！』というキャッチ音が響くボールをひょうひょうと投げ込んでくる。『一体なんなんだこいつは』と驚きを隠せなかった。井川は口数が多いやつではなく、自分のことは話さないし天然です（笑）。ですが、投げるボールがすべてを物語っているんですよ。　　

　中谷にしても、独自の理論を持っていて先輩たちにも臆せず自分の意見をブツケていく。同じ高卒と思えないほど、野球に対する理解もすごく深かったことが印象的でした」

　プロに入ることを目標にしていた奥村と、「プロでどう活躍するか」という同期との意識の差は次第に目に見える形で開いていく。1年目に右肘を痛め手術を受けた奥村を尻目に、2人はプロの水に慣れていった。

田舎から上京「街がキラキラしていた」

　当時の阪神タイガースという球団の気質も、奥村にとってはプラスには働かなかったのかもしれない。都心部での遊びを覚えたことが快楽となり、夜な夜な先輩や支援者達と飲み歩いた。

「田舎から出てきたのもあって、街がキラキラして見えちゃうんですよ。怪我もあり、野球よりも遊びが優先になってしまった。息抜きは必要ですが、私の場合はキャパシティ以上の遊びを覚えてしまい、それもよくなかった。オフには、もうお金がないみたいな。ただ、（藤田）太陽や（藤川）球児なんかの後のドラ1をみると、自分の頭が考えてトレーニングや行動ができていた。その意識がプロとしては大きな差となっていった」

（左から）井川慶や藤川球児らと練習する奥村さん（本人提供）

　翌年は1年間をリハビリに費やしながら、ルーキーだった藤川球児の教育係に指名された。高知から出てきた1学年下の後輩は、時に生意気さすらある人懐っこさの反面、野球に対しての意識の高さを節々で感じさせた。当時の奥村にとっては、藤川の投手としての才能よりも、解説者としても評判が高いその野球脳に対して目を見張るものがあったという。

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