「野球で大学進学」に両親の反対

　もっとも、この俳優志望は、僕にとっては一種の熱病のようなものだったのでしょう。あれほど文学座にご熱心だったその悪友も、高校卒業後は、僕と同じようにフツーの大学に進学しています。その後も彼が俳優になったという話は聞いたことがありません。

　今から思うと、現実性のない俳優志願は、進路の選択に悩んで落ち込んでいた僕の現実逃避だったのかもしれません。

WBC中の一コマ ©Naoya Sanuki

　前にもいったように、僕自身の気持ちとしては、何としても六大学に進み、神宮球場で思い切り野球をしたいと思っていました。実際に六大学のうちの何校かのセレクションを受けたのですが、そのなかには手応えのある返事を聞かせてくれたところもあったのです。

　でも、高校を受験する時と同じように、“野球での進学”には両親が反対していました。理由も高校の時と同じだったと思います。セレクションで入学すると、待っているのは当然“野球漬け”の大学生活。それで、卒業後プロやノンプロに行ければいいが、どこもとってくれなければどうするのか、というのが両親の意見です。体格や素質の面で野球選手としてあまり恵まれているとはいえない僕の将来を気遣ってくれての意見です。

　そういわれると、僕は二の句を継ぐことができません。同じ高校生でも素質に恵まれ、将来が有望視されている選手には、各大学が引くてあまた。そればかりか、ドラフトを通してプロからも声がかかっています。

　でも、僕にはどこからも誘いがかかりませんでした。辛うじて六大学のセレクションにひっかかっている程度。そのことを指摘されると、とても「将来も野球で生きていく」などと、強い言葉を口にすることはできませんでした。それどころか、有力選手が集まる六大学の野球部で、果たして自分がどこまでやれるのか、と逆に不安に襲われる始末です。

　そんな状態で、秋から冬にかけて、僕は気持ちの落ちつかない悶々とした日々を送っていたのです。

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