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アイルトン・セナの伝説の走りを彷彿させて、今季充実のフェルスタッペンがレジェンドに並ぶ41勝を達成
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byGetty Images / Red Bull Content Pool
posted2023/06/21 06:00
カナダGPでセナに並ぶ41勝目を挙げ、レッドブルにF1での100勝目をもたらしたフェルスタッペン
その後、ホンダの第3期F1活動を支えた吉野は、2015年から始まった第4期活動に19年から参加。ホンダがレッドブルにパワーユニットを供給するようになったこの年、吉野はフェルスタッペンと初めて仕事をするようになる。
長年、レースを戦ってきた吉野にとって、フェルスタッペンはそれまで出会った多くのドライバーとは、明らかに異なっていた。
「これほど、勝ちたいという意欲を強く持つドライバーには会ったことがない」と言う吉野にとって、忘れられないレースとなったのが今年のモナコGPだ。
モナコのフェルスタッペンに蘇ったセナの記憶
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フェルスタッペンがQ3の最後のアタックに入る前、暫定ポールポジションに立っていたのはフェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)だった。セクター2を通過した時点で、フェルスタッペンの通過タイムはアロンソから0.204秒遅れていた。残すはセクター3のみ。コースの約3分の1だけで、コンマ2秒を逆転するのは、不可能だと思われた。
「セクター2でコンマ2秒遅れていたときは、ガレージの中にいるスタッフたちのほとんどが『これはダメか』と諦めムードになっていました」(吉野)
ところがフェルスタッペンは、最後のセクターで2度ガードレールに接触しつつも、アクセルを緩めない伝説の走りを披露。不可能だと思われたコンマ2秒差をひっくり返して、逆転でポールポジションを獲得した。その走りを見ていた吉野はセナの言葉を思い出した。それは、かつてセナが落合信彦氏のインタビューで語っていたものだった。
「モナコはガードレールの際、ギリギリまで攻めないとタイムを出せない。だから、ほかのサーキットなら3cmのマージンを取るところをモナコでは1cmまで縮めて、走るようにしている」
そのモナコGPで勝利したフェルスタッペンは、続くスペインGPでも勝利を飾り、40勝の大台に乗せてカナダGPへ。そして、70周のレースをポール・トゥ・ウィンで制して、ついにセナの記録に並んだ。
「カートに乗っていた幼いころから、F1ドライバーになることが僕の夢だった。だから、これほど多くのレースに勝つなんて想像もしていなかった。しかも、アイルトン・セナに並ぶなんて信じられないし、本当に誇りに思う」(フェルスタッペン)
そう語って表彰台で喜ぶ姿に、吉野はセナを重ねて見たに違いない。
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