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ラグビーの歴史を変えた“雨の3位決定戦”…知将・沢木敬介の涙が証明する勝者マインド「低迷イーグルスが強くなった理由」
posted2023/06/04 11:02
text by
齋藤龍太郎Ryutaro Saito
photograph by
JRLO
5月19日。雨がそぼ降る夜の秩父宮ラグビー場で催されたリーグワン3位決定戦で、横浜キヤノンイーグルスは歴史的な瞬間を迎えようとしていた。リーグワンの前身、トップリーグで5度優勝した強豪、東京サントリーサンゴリアスを相手に後半逆転したイーグルスが26-20とリードする中、ラストプレーを告げるホーンが鳴り響く。
SHファフ・デクラークがタッチへ蹴り出すと、ファン、選手、スタンドのノンメンバー、コーチングボックスの指導者らイーグルスに関わる全員が喜びを爆発させた。公式戦で初めてサンゴリアスを破り、チーム史上最高位の3位を掴み取った瞬間だった。
2019年ラグビーW杯の優勝メンバーでもある南アフリカ代表SHデクラークは、疲労困憊で座り込み、動けない。SO田村優も足の痛みに耐えかねてその場で仰向けに倒れ込む。
「なかなか見ないでしょう。あのファフ・デクラークがしゃがみ込む姿は。(田村)優も倒れていたし、みんなが力をしっかり出し切った試合でしたね」
監督就任3シーズン目でイーグルスを3位まで引き上げた指揮官は、微笑みながら勝利の瞬間を振り返った。
「ああ、これは12位のチームだな」
沢木敬介。元日本代表SO/CTBとして7キャップを持つ48歳。選手としても活躍したサンゴリアスでかつて監督を務め、2016-2017シーズンからトップリーグ2連覇を達成した。U20日本代表HC、現オーストラリア代表HCのエディー・ジョーンズが率いていた日本代表とサンウルブズでコーチングコーディネーターを歴任した国内屈指の知将は2021シーズン、イーグルスの監督に就任した。
「ああ、これは12位のチームだな」
それが沢木のイーグルスに対する第一印象だった。コロナ禍で打ち切りとなった2020シーズンの前、2018-2019シーズンのイーグルスは16チーム中、12位に沈んでいた。
「練習に取り組む姿勢、ラグビーに向き合う姿勢、チームとしてのまとまり方に『この組織では勝てないな』と感じました。もちろんみんな一生懸命やっていたけど、ただ練習を“こなしている”感があったし、チームをどうしていきたいかと真剣に考える選手も多くなかった。そこから取り組んでいかないとチームは変わらないと考えました」