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“あの人は、東大監督の枠に収まる器ではない” 監督3年目・林陵平(36歳)は秀才集団をどう惹きつけた?「“元プロだから”は通用しない」
text by
杉園昌之Masayuki Sugizono
photograph byYuki Suenaga
posted2023/05/12 17:01
東京大学ア式蹴球部の監督に就任して3年目を迎えた林陵平。「まさか自分が赤門をくぐるとは」と、本人も笑うほど意外なキャリアを歩んでいる
基本的に月曜日以外は、東大のトレーニングと試合。ライフワークというヨーロッパ各国リーグの試合に目を通しつつも、自らが率いるチーム、対戦相手の試合も動画でチェックする。次戦に向けての対策を考え、練習に落とし込む作業を繰り返し、トレーニングメニューは本やインターネットから情報を集め、自らで考えてきた。
2020年11月にJ2ザスパクサツ群馬で12年の現役生活に別れを告げた後、時を置かずして東大の指揮を執り始め、すでに3年目を迎えている。就任初年度の21年は2部への降格を味わったが、2年目には1部に復帰。今季は再び1部の舞台で戦っている。
「選手時代とはサッカーの見方が大きく変わりました。監督だからこそ見えることは数多くあります。東大ではアウトプットだけでなく、インプットもしています。対戦相手のシステムによって、どのポジションで位置的優位をつくれるのかなど、毎回、ミーティングで具体的なゲームプランを話しています。これは解説にも通じるものがあるんです」
「シティと同じような戦い方では勝てない」
1年目からスムーズにチーム作りが進んだわけではない。監督経験が不足していたこともあり、苦労を重ねた。選手それぞれの特性を理解し、チーム力を把握するまでには多くの時間を要した。監督自身が志向するスタイルがあっても、できることもあれば、できないこともある。選手たちが理想に掲げるサッカーも同じだった。
「東大の選手たちはみんな、ポゼッション重視のサッカーにこだわりを持っていました。ただ、試合に勝つためには相手チームと自チームの力を比べて、戦い方を使い分けることも必要です。理想と現実の落としどころは考えました。例えば、プレミアリーグの下位クラブがマンチェスター・シティと同じような戦い方で臨み、ポゼッション率で上回って試合に勝つ確率が上がりますかと」
とはいえ、東大に縦に速いカウンターを重視するサッカーに適した人材がそろっているわけではない。スポーツ推薦枠はなく、全員が最も厳しい受験競争を勝ち抜いてきた知的エリートばかり。同じカテゴリーで戦う他大学の選手たちに比べると、総じてアスリート能力で劣っていることが多い。だからこそ、学生主体で運営する東大の選手たちは戦術で勝負し、ポゼッションサッカーに活路を見いだそうとしてきたのだ。それでも、思うように勝てない現実があったのも事実。結果の世界で生きてきた元Jリーガーの監督は勝利から逆算し、考えを巡らせた。
「戦術以前に個々の能力をもっと引き上げる努力をしようと伝えました。現代サッカーではフィジカルの要素も重要視されています。だからこそ、より走らないといけない、体も強くしないといけない、技術も向上させないといけないよと」