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渡邊雄太“幸せな時間”も“冷遇”も味わったNBA5年目「現実をしっかり受け止める」暁子夫人の変化も明かす「僕も楽しみにしているんですよ」
text by
杉浦大介Daisuke Sugiura
photograph bySipa USA/JIJI PRESS
posted2023/04/30 11:03
激動の1年となったNBA5年目。渡邊雄太は「すごく大きな経験ができたシーズンだった」と最後は笑顔で締め括った
シーズン中盤以降はプレータイムが激減したが、NBA5年目となった2022-23シーズン、渡邊が生産的な時間を過ごしたという事実に変わりはない。出場試合数、プレータイム、平均得点、FG成功率、3P成功率といった主要スタッツでは軒並みキャリアハイ。前半戦では波乱の多かったネッツを支える功労者となり、中でも11月の8試合では平均11.6得点(FG成功率61.8%、3P同57.6%)、4.0リバウンドという優れた成績を残した。ケビン・デュラント、カイリー・アービングという2人のスーパースターの信頼を勝ち取り、劇的な活躍を何度も見せてくれた。
「改めて振り返ってみてもすごく楽しい時間でしたし、今、考えたら夢のような時間でした。小さい頃から見ていたデュラント、アービングと肩を並べ、彼らから信頼を得て、同じコートでプレーをしていた時間は自分にとっても幸せでした」
今季のネッツの戦いを追いかけてきたファン、関係者なら、ふと思い返せば渡邊が中心になった幾つものハイライトシーンが脳裏に浮かんでくることだろう。
アリーナの空気を変えた“魔法”
昨年11月17日のポートランド・トレイルブレイザーズ戦では5本の3Pを決めて敵地での勝利に貢献すると、続く20日のメンフィス・グリズリーズ戦では今度は第4クォーターに4本の3Pを成功させて地元アリーナを驚嘆させた。12月16日、トロントでのラプターズ戦では17得点の活躍で古巣のファンを沈黙させ、2月9日のシカゴ・ブルズ戦ではご両親がスタンドで見守る前で4本の3Pを沈めて溜飲を下げた。
それはまるで魔法のようだった。縦横無尽のハッスルプレーで盛り上げ、さらにコーナーから放つ3Pがゴールに次々と吸い込まれる。渾身のガッツポーズとともに、ファンの心が1つになり、アリーナの空気が変わっていく。
短くない間、NBAの取材を続けてきたが、たとえ短期間でもNBAのコートで渡邊が作り出したような非日常空間を生み出せた選手はそれほど多くはない。シーズン前の無保証契約の立場から、一気にブルックリンの人気選手として確立していった渡邊は、アメリカンドリームの体現者だったと言っても大袈裟ではなかった。
これほどの躍進の最大の要因は、やはり3Pの向上に違いない。序盤戦ではしばらく50%以上の高確率で決め続けてファンを喜ばせ、2023年の年明けの時点ではなんとNBA全体でも1位の数字を叩き出していた。シーズン全体の成功率でも“最低限の目標”としていた40%を大きく上回り、過去最高の同44.4%を残している。
「3Pに関してはいい数字を残せないと、今年で(NBAでの生き残りは)厳しくなってくるっていう中で、最終的に45%に近い数字で決められた。誇らしく思っていいと思います。特に何かを変えたわけではなく、今シーズンは自信を持って打てていた。3Pに関してはもう“自分の武器”と言っていいんじゃないかと思います」
プレーオフ前のそんな言葉通り、今後のNBAキャリアを考えた上でも、NBAの舞台で自信を持てる武器を確立させたことには重要な意味があった。