ボクシングPRESSBACK NUMBER
「1年後には世界ランカーに入っても…」那須川天心”目”はすでに超一流! 元世界王者・飯田覚士が見たボクサー天心の可能性…不安要素は?
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byTakuya Sugiyama
posted2023/04/28 17:14
ボクシングデビュー戦で日本ランク2位の与那覇勇気(右)を攻守で圧倒し判定勝ちを収めた那須川天心。ボクサー那須川の可能性について、元世界チャンピオンの飯田覚士氏が徹底分析した
「1ラウンド途中には既に距離をつかんで与那覇選手のパンチを見切っていました。キックボクシングとボクシングの距離感は全然違うし、2月にプロテストの映像を観た際(距離感をつかむには)半年ほど掛かるだろうなという印象を持ったんです。でもその後にアメリカで合宿をやって、アンジェロ・レオ(元WBO世界スーパーバンタム級王者)とのスパーリング映像を観て驚いたのは既にボクシングの距離になっていたこと。これはもう天性のものと言っていいでしょう。だからこのデビュー戦も“まあ、そうだよな”という感想です。
ボクサーは相手のどこを見るかと言ったら、パンチにフォーカスするためについつい上半身ばかりに目線を送りがち。僕もキャリアをかなり積んでから、やっと足の動きに目が行くようになりました。でも那須川選手の場合は元々キックをやっているので相手の足や全体を見るクセがついている。相手との距離を測る、パンチを見切るという力はかなり高いレベルにあります」
初回から見切っていた?
相手を全体的に見ることで情報量は増え、距離感や対応を弾き出すまでの時間も短縮できる。戦いが始まってすぐにジャブの交換から距離を測りだし、すぐにピントを合わせた。ガードを高く構えなかったのは「初回から見切っていた」とも言える。踊るように軽やかにステップを踏みながらコーナーに戻ってきた2ラウンド終了時にはコーナーに戻るや否やセコンドに「凄い見えます」と伝えている。
いくらほかの格闘技でキャリアがあるとはいえ、アマチュアボクシングの経験もなく、これがボクシングデビュー戦である。与那覇の立ち上がりも決して悪かったわけではない。プレッシャーを掛けてくる日本ランク2位を相手に、涼しい顔で見切っていた。
ときにバックステップを踏みながら、ときに歩くように下がりながら。退いたと見せかけて、与那覇が前に出てくるタイミングでパンチを見舞う。ディフェンスのためのディフェンスではなく、あくまでオフェンスのためのディフェンスだった。
飯田は唸るように語る。
「相手のパンチが当たる距離というのはリーチの長さに沿って、相手の位置を中心にした扇形の広さ。僕はまずそこを見ます。もちろん踏み込んできたらどうなのかも確かめておく。その扇形の攻撃範囲を把握しておけば問題ありません。(ワシル・)ロマチェンコのレベルになるとわざとガードの上を打たせて、威力までインプットします。
那須川選手は扇の内側、外側いずれにおいてもどの位置に頭を置けばより安全度が高いのか理解していて、そのうえで自分の攻撃につなげていくというもの。わざと下がって、誘い込むというシーンもありました。見る力の高い人は、相手がどう見ているかも分かります。これは視覚能力においてレベルアップの大事なポイントなんです」
那須川は既に多くを有している
1ラウンド途中にこんな場面があった。与那覇の注意を引くように左手を横に伸ばしてからサウスポーの那須川は右ジャブを突いてから左ボディーを打ち込んでいる。目線の駆け引きを仕掛けつつ、相手の見え方がどうなのかという情報を集めるアクションの一つにも思えてくる。