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フォーク覚えて今季は無双!? カープ松本竜也が「直球一本槍」から大変身で空振り奪取率3倍!
posted2023/04/24 17:00
text by
前原淳Jun Maehara
photograph by
JIJI PRESS
マウンドに上がった背番号45の背中が、昨季よりもどこか大きく見える。シーズン序盤、下馬評が低かった広島は混戦のセ・リーグを盛り上げているが、その奮闘を支えるのは抑えの栗林良吏を中心としたリリーフ陣。その中で2年目の松本竜也が、ニック・ターリーとともに勝ちパターンの一角を担っている。
今季も最大の武器は、真っすぐにある。日本のプロ野球界では、直球の回転数が平均2200回転といわれる中、松本の直球は2500~2600回転。しかも回転軸が地面と垂直に安定していることで、ホップ成分(※)は球界内でも突出している。
(※リリースからホームベースに届くまで自然に落下する距離より、どれだけ「落ちないか」を示す目安)
真っすぐは140キロ台ながら、昨季もセ・リーグの強打者たちから空振りを奪ってきた理由はそこにある。今季は真っすぐの回転数や球質に劇的な変化はないが、平均球速が上がって球威は増している。
今季初登板は開幕3戦目の4月2日、神宮でのヤクルト戦だった。同点の8回、先頭の村上宗隆に打たれた右翼越え二塁打が不運な形で決勝点となり、黒星を喫した。チームは開幕3連敗という結果となったが、松本の中には確かな光が見えた初登板でもあった。
今季の第1球目に選んだ真っすぐが高めのボールとなった直後、選択したのはフォークだった。昨季にはなかった球種だ。
ストレートをさらに生かすためのフォーク
フォークボール習得——。そのことだけを考えてきた140日間だった。
昨年11月13日の夕刻、秋季キャンプに参加していた松本は宿舎の一室にいた。横山竜士、菊地原毅。2人の投手コーチと飯田哲矢スコアラーとともに翌年に向けた課題を挙げながら、取り組んでいく方向性を共有するためだった。
今年1月から肩書をチーフアナリストに変えた飯田は、昨季一定の出場試合数があり、分析できるほどのデータが集められた投手と、コーチを交えての個別面談を行った。その中で、松本に求められるものは単純明快だった。真っすぐを生かす球種の習得。それが、フォークだった。
球種ごとの効果を測る「ピッチバリュー」という指標がある。ストライクとなったり、アウトを取ったりした球はプラスとされ、ボールと判定されたり安打を打たれたりした球はマイナスとする。3ボールからストライクを取りに行った球でもプラスとなり、いいコースに決まってもボールと判定されればマイナスとなる。あくまで結果から導かれた指標に過ぎないが、昨季の松本が「ピッチバリュー」でプラスだった球種はストレートのみ。真っすぐ1本で勝負していたようなものだった。
それでもチーム2位の50試合登板、4勝2敗4ホールド、防御率3.56の記録を残した。もうひとつ武器を持つことで得られるものは計り知れない。