フィギュアスケート、氷上の華BACK NUMBER
《独占》“第二の祖国”日本で高祖父の墓参り…競技生活に終止符を打ったキーガン・メッシングの“長年の夢”に協力した筆者が語る秘話
posted2023/04/21 17:00
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph by
Tomohisa Konno
4月16日に終了した国別対抗戦にて、カナダのキーガン・メッシングは盛大な声援の中で最後の競技の演技を終えた。シニアに上がってからおよそ14年に渡った競技生活に終止符を打った。
「この会場で、そしてこの大会で競技活動を終えることができたというのは、信じられない思いです。日本の素晴らしい観客だけでなく、各国のブースには、多くのスケート仲間たちが座っていた。友人と家族が一緒にいて見守ってくれたことには、大きな意味があります」
感極まったように、31歳のキーガンはそう語った。
「でももう体力的には、限界なんです」
「氷の上に立った時はものすごく緊張して、特にSPの時はベストな演技をしたいという思いが強すぎたと思う。でも良い締めくくりをすることができて、本当に嬉しいです」
SPではジャンプミスが重なったが、フリーでは全体をまとめた演技を滑り切った。
「あと1年やってよかった。今季は31歳にしてSPとフリーの両方でベストスコアを出して、初めてISUチャンピオンシップのメダルをもらうこともできました。でももう体力的には、限界なんです」
本来なら北京オリンピックを終えた昨シーズンで引退しても、おかしくはなかった。だがもう1シーズン続ける決意をしたのは、この東京の国別対抗戦で、最後の演技を終えたかったためなのだという。
「2021年にはこの大会に出ることができず、ここで競技を終えることは夢でした。身体がここまでもってくれたのには、感謝の思いでいっぱいです」
キーガンがそこまで日本での国別対抗戦にこだわったのには、理由がある。
母方の高祖父は、カナダの日系移民第一号
彼はアメリカ人の父と、日系カナダ人の母の間に生まれた。母方の高祖父は、カナダの日系移民第一号と言われる永野万蔵さん。キーガンは永野氏から数えて5代目の子孫になる。永野氏、そしてその子供は日系人同士で結婚。そのためキーガンと同居している万蔵さんの孫にあたる祖母は、血筋的には純粋な日本人だ。彼が子供の頃、孫たちには理解できない日本語でよく話しかけられていたという。母のサリーさんはいわゆるハーフ、キーガンはクオーターになる。
そんな彼にとって、日本は第二の祖国なのである。
この国別対抗戦が終了した翌日、キーガンは来日していた母親のサリーさんと共に長崎に飛び、初めてこの高祖父のお墓参りを果たした。
実を言えば、彼のお墓参りのきっかけを作ったのは筆者だった。