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侍ジャパンPRESSBACK NUMBER
WBC栗山英樹監督が“村上と心中”を決めた瞬間…城石憲之コーチが振り返る舞台裏「ごめん、代打はないから」「源ちゃんの送球を実際に捕ると…」
text by
佐藤春佳Haruka Sato
photograph byGetty Images
posted2023/04/17 11:02
WBC準決勝のメキシコ戦9回裏、村上宗隆の代打として牧原大成に準備をさせていた栗山英樹監督。その舞台裏を城石憲之コーチが明かす
「その気持ちの強さにはビックリしました。物静かに見えるけれど、こんなに熱い選手だったのか、さすがライオンズでずっとレギュラーを張っている選手だな、と。診断を受けた後、東京ドームの練習でノックの動きを見て、僕がファーストに入って実際に投げるボールを捕ってみました。小指を固定して4本の指で投げている状態でしたが、驚くほどしっかりとした回転のかかったボールを投げていた。監督には『守備は大丈夫だと思います』と伝えました」
物腰が柔らかいですが、実は凄く攻める方
バッティングは、グリップの下に右手小指を乗せ、力を逃すようにして打っていた。源田の揺るがぬ意思、医療的な所見、所属球団との話し合い……。熟慮に熟慮を重ねた末、栗山監督が下した決断はチーム残留だった。しかも怪我から6日後の準々決勝・イタリア戦ではスタメンで起用し、フル出場させた。
「普通ならば大事をとって……となるところ。もちろん、監督が一人で決めた訳ではないけれど、ある意味で選手の人生を背負う覚悟で大きな決断をされた。栗山さんは物腰が柔らかいですが、実は凄く攻める方なんです。采配、作戦という面ではどんどんと手を打っていく。出し惜しみじゃないですけど、(一手を)残しておいて負けることだけは凄く嫌だ、といつもおっしゃっている。そこもファイターズ時代から変わらない姿ですね」
メキシコ戦、城石が栗山に伝えた「迷い」
一方、「動く」ことではなく「待つ」ことで勝利への道を切り開いたのが、村上宗隆(ヤクルト)のあの劇的な一打だった。1次ラウンドを通じ、打率1割台で長打なし。昨シーズン56本のホームランを放った史上最年少の三冠王が、不振に喘いでいた。準決勝のメキシコ戦。4−5と1点を追う土壇場の9回、先頭打者の大谷翔平(エンゼルス)が二塁打を放ち、続く吉田正尚(レッドソックス)が四球を選び無死一、二塁。そこまで3三振を喫していた村上を、栗山監督は打席にそのまま送り出した。
城石コーチは、大谷が二塁打を放った時点でベンチ裏へと向かっていた。不調の村上の代打として送る牧原大成(ソフトバンク)に準備を伝えるためだった。サインは「犠打」いわゆる“ピンチバンター”だ。
「はい、わかりました」
指示に頷いた牧原の表情はこわばっていた。