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「大谷(翔平)選手は雑なところが一切ない」今永昇太29歳がWBCで考えさせられた“これからどう生きるのか”「ダルビッシュさんから言われたのは…」
text by
石塚隆Takashi Ishizuka
photograph byNaoya Sanuki
posted2023/04/10 11:03
決勝に先発し、2回1失点も優勝試合の勝ち投手となった今永。復帰登板を前にWBCを振り返り、現在の状況を教えてくれた
「ターナー選手に関しては、キャッチャーの中村(悠平)さんと、チェンジアップとカーブはゾーンに入れず、両サイドの真っすぐとインハイのカットを使っていこうという話をしていたんです。ターナー選手のヒットゾーンがわかるヒートマップを見て、真ん中低めを得意にしていたのはわかっていたのに、そこに投げてしまった……。しっかりとそこをホームランにする技術の高さ。これがトップ中のトップということを思い知らされました」
この回をなんとか抑えきると、今永は最少失点でマウンドを降りた。失投の後悔はあったものの、十分に務めを果たすことができた。そしてゲームは進み最終局面、ベンチから悲願の世界一を見届けると、歓喜の輪をめがけ駆け出していった。
今永が考える「大谷選手はなぜすごいのか」
「あのマウンドにみんなが集まった瞬間は、めちゃくちゃよかったですね」
深く呼吸をするように今永は言った。勝利投手にもなり、きっとそこには野球人生を終えるときに思い出す光景が広がっていたはずだ。
またとない経験をした今永であるが、宮崎合宿から侍ジャパンのメンバーとして行動し、とくに感銘を受けたのは、やはりメジャーリーガーの大谷翔平とダルビッシュ有だった。
「大谷選手はなぜすごいのか。“すごい”というとたった3文字なんですけど、なぜ“すごい”のか、わずかの期間ですが少し理解できたような気がします。大谷選手は、野球に対して雑なところが一切ないんです。試合後は必ずウェイトをやってコンディションを整え、食生活も含め規則正しく日々を過ごしている。あのレベルの選手がそれをやっているところは本当に参考になりましたね。
そしてダルビッシュさんは技術など本当に素晴らしい選手なんですけど、野球うんぬん以上にマインドに感銘を受けました。ダルビッシュさんの年齢や実績を鑑みれば、自分の意見が通る立場なのに、日本代表のときはそれを一切しないんです。あの人はすごいからなにをやってもいいんだって行動を絶対にしない。むしろダルビッシュさんにしかできないことをチームのためにやる。僕が生きていく上でその姿は参考になったし、自分のチームに落とし込まなければなって。大谷選手しかり、あのレベルの選手たちがこれだけやっているんだから、自分はどこで勝負すればいいのか考えさせられました。あの人たちにはない自分の長所を生かし、上回っていかなければと気づかされましたね」
“自分のボールが通用しなかった”発言の真意は?
野球人として、そして人間としてインスパイアを受けた今永。“投げる哲学者”と呼ばれる男は、WBCでの経験によりそのフィロソフィーをより深いものにしたことだろう。
今永に関し、ひとつ気になることがある。日本に戻ってきたときメディアに「アメリカの打者に対して、自分のボールが通用した瞬間があったとは思えない」と語っていたが、将来的なMLB挑戦を公言している今永とって、その言葉の真意はどこにあったのだろうか。