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「大谷(翔平)選手は雑なところが一切ない」今永昇太29歳がWBCで考えさせられた“これからどう生きるのか”「ダルビッシュさんから言われたのは…」
text by
石塚隆Takashi Ishizuka
photograph byNaoya Sanuki
posted2023/04/10 11:03
決勝に先発し、2回1失点も優勝試合の勝ち投手となった今永。復帰登板を前にWBCを振り返り、現在の状況を教えてくれた
「でも考えてみれば、世界で先発として2人しか上がることのできない特別なマウンド。ものすごく光栄なことだし、ここでマイナスに考える必要はないかなって。とにかくイキに感じることが大事だなって」
ローンデポ・パークでのメキシコ戦のサヨナラ勝ち。勝利に乱舞するチームメイトをよそに今永には緊張の波が押し寄せていた。明日の決勝、ここで自分がオープニングを飾るのだ。その日、ホテルに戻ったのは深夜0時ごろだった。
決勝前夜は「ソワソワしながら寝た」
「部屋に戻ってからはアメリカの選手の動画見て、こんな感じかと思いながら、でもコンディションのために寝なきゃいけないし、何だかいろいろソワソワしながら寝た記憶があります。え、眠れたか? はい、朝起きたときは意外と寝ることができたなって」
意気軒昂と挑む決勝戦。しかし試合前のブルペンで思ってもみなかったことが起こる。投球練習でストライクが入らないのだ。
「ホント1球も入らなかったし、腕も振れていない感覚でしたね。ただ緊張からくるものというよりも、マウンドと自分のフォームがアジャストしていないといった感覚で、そこまで焦りはありませんでした」
このあたりは経験だろう。ブルペンとマウンドは別物だという投手は少なくない。ブルペンでいくらいいボールを投げていても、マウンドに立つと荒れ球になってしまう投手もいれば、またその逆もしかり。今永はブルペンがいまいちであってもマウンドで修正できるタイプである。
1球目からちょっと違った“メカニズム”で投げた
地鳴りのように響くスタジアムの歓声。アメリカのオールスター軍団の前に立ちはだかった今永。先頭打者のムーキー・ベッツに投じた初球のストレートがインサイドに突き刺さる。判定はストライク。
「1球目からちょっと違ったメカニズムで投げたんです。ブルペンのときは上から投げていた感覚で、このままだとアジャストしないと思ったんで、スピン量を担保できるぐらいの感じで少しだけアームアングルを低めにして投げました」
真ん中低めを得意にしていたのはわかっていたのに…
今永は初回の打者4人に対して9球投じたが、ボールになったのはわずか1球だけ。一線級の打者相手に球威のあるボールを武器に、ゾーン内で勝負することができた。これ以上ない緊張の場面で見せた修正力。今永の能力の高さを証明するピッチングだった。
だが好事魔多し。2回、当たっていたトレイ・ターナーに真ん中低めのストレートを拾われホームラン。先制点を許してしまった。
「あれはもう大失投ですね……」
無念を漂わせ今永はつぶやいた。