相撲、この技、この力士BACK NUMBER
元横綱稀勢の里 二所ノ関親方が徹底解説
第八回:朝青龍「寄せの速さと“隙”のなさ」
posted2023/04/09 09:00
text by
二所ノ関寛Hiroshi Nishonoseki
photograph by
Takayuki Ino(Illustariton)
はじめて朝青龍関と人生が交錯したのは、2003年の五月場所のことでした。16歳だった私は三段目の優勝決定戦に進出したのですが、そこで負けてしまい、支度部屋で号泣していました。そこに土俵入りの準備をしていた当時最強の横綱がやって来て、声を掛けてくれたのです。
「その気持ち、大事だぞ。忘れるな」
横綱のひと言は重く、自分の中に闘志の火が燃えるのを感じました。
そして私も出世を重ね、横綱との初対戦を迎えたのは2005年の十一月場所でした。私は19歳で、前頭五枚目まで番付を上げたイケイケの若手。新聞も横綱との初顔わせを煽り、「稀勢、(朝青龍を)睨み倒す見出しが躍っていました。私もそれに乗せられ、土俵下で横綱を睨みつけていました。ところが横綱もそれ以上に睨み返してくる。私が耐えられなくなって目を逸らし、もう一度睨もうとすると、横綱はその間もずっと睨み続けている。正直、動揺してしまいました。まさに蛇に睨まれ蛙で、土俵上でも一方的にやられ、土俵下から勝負に負けていたことを痛感させられたのです。