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「藤井(聡太)先生は今も強くなっている。でも…」新鋭17歳・藤本渚が語る“将棋・家族とミスチル愛”「父とシーソーゲームを歌って」
text by
北野新太Arata Kitano
photograph byAi Hirano
posted2023/04/02 11:04
18歳の藤本渚四段。ABEMAトーナメントをはじめ今後の将棋界での活躍に期待がかかる
「これからどうなるか分からないというワクワクとドキドキが無くなったら、僕は耐えられなくなってしまうと思う。これからどういう将棋になっていくだろうと思いながら初手を指したいです。今、生み出されている将棋が長い時間を経た後、何の価値もないものになるなんて考えたくないです」
心にあるのは不安と恐怖だけではない。棋士として船出する者の確かな意志だった。四段昇段を決めた夜。最終便の新幹線に間に合うように帰路を急ぎながら、音楽を聴いていた。あの頃、車の中で父と一緒に歌ったミスターチルドレンだった。
「朝と同じ暗い曲を聴いていたのに明るく聴こえて。おかしいな、と(笑)」
桜井和寿の歌声が鼓舞してくれたこととは
桜井和寿の歌声はこれから駆け出そうとしている自分を鼓舞してくれていた。
「自分も何かを生み出すんだ、という意識を持ちたいです」
棋士が指す一局の棋譜も、誰かの心を動かす力を内包している。17歳は明日へと歩き始めていた。
「聴いているとリズムに乗りたくなっちゃって。ヘンな人だと思われないように気をつけました」
東京の街に夜の風が吹いた。自分は棋士になるのだ、と初めて思った。
藤本渚はヴォリュームを上げた。
藤本渚(ふじもとなぎさ)
2005年7月18日、香川県生まれ。井上慶太九段門下。2022年四段。第71回三段リーグを1位の成績(13勝5敗)で突破し、現役最年少棋士に。兄弟子である菅井竜也八段の後援会「竜棋会」の名誉会員。ABEMAトーナメントでは「チーム千田」の一員となった
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