濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「お母さんが薬物をやっています」通報で逮捕…1分間格闘技BreakingDownの新星・外枦保尋斗の“切実な動機”と壮絶人生「どん底から這い上がりたい」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byBreakingDown
posted2023/03/31 11:04
BreakingDown7では2度のダウンを奪い、KO勝ちを収めた外枦保尋斗
「お母さんが薬物をやっています。連れて行ってください」
高校には行かず、父と同じ建築業に。待っていたのは父の暴力だ。自分の態度も反抗的だったと記憶している。今では感謝もしているそうだ。ただその時はとても耐えられなかった。格闘技を始めたきっかけを聞くと、外枦保は言った。
「お父さんをぶっ飛ばすためです」
母に連絡すると神奈川にいた。外枦保も地元を出る。再び、母との生活。たまたま通りかかったキックボクシングのジムが名門で、入会しプロを目指そうと思った。実際、アマチュア8戦、プロ5戦で全勝という結果を残している。もしかするとK-1やRISEに出場する道もあったかもしれない。だがそうはならなかった。
大好きだった母が薬物に手を出した。覚醒剤だった。家族の前で堂々と注射を打つ。人が変わり、ネットで格闘技に打ち込む息子のことを悪く言うようにもなった。逮捕されれば薬物をやめられるはずだ。妹とも相談して警察に通報した。
「お母さんが薬物をやっています。連れて行ってください」
母は自分の目の前で警察に連行されていった。
「今すぐ有名になりたい」という切実な動機
母とは絶縁。妹とも離れ、格闘家としての活躍を目指す日々。しかし昨年、妹から母がまた逮捕されたという連絡があった。自分が有名になって、格闘技で活躍しているところを見れば母も立ち直れるんじゃないか。そう思ってブレイキングダウンに応募した。
ブレイキングダウンの参加者には「手っ取り早く知名度がほしいだけ」という批判もある。コツコツと努力し、強くなって一般の大会で結果を出すのが本筋だろうと。それは確かにそうなのだが、外枦保には今すぐ有名になりたい切実な事情があった。
「やっぱりブレイキングダウンが、いま一番注目される舞台なので。他の大会では、結果を出さないと自分のことをアピールしても届かない。でもブレイキングダウンはアピールすることから始まるんです」
壮絶な人生は朝倉未来にも注目され、YouTubeのコラボ動画で練習も。その能力を絶賛された。
一歩踏み出したかいはあった。オーディション動画を見た知人から連絡があり、母が北海道の刑務所で服役中だと知る。思いをしたためた手紙を送る。返事はなかった。恨まれているのかもしれない。けれど人生が前進したのは確かだ。余計に負けられなくなった。