猛牛のささやきBACK NUMBER
大谷翔平が最後のマウンドへ…ブルペンの宇田川優希が見た景色とは? 大谷に学んだ“パスタは塩だけ”「ダルさんにガッカリされないように」
posted2023/03/30 11:04
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph by
Getty Images
どちらも目に焼き付けたい――。
WBC決勝の8回表。ブルペンにいた宇田川優希(オリックス)は、せわしなく首を回転させながら、マウンドにいるダルビッシュ有(パドレス)と、9回に備えブルペンで肩を作る大谷翔平(エンゼルス)の姿を交互に追った。ダルビッシュが1球投げ、中村悠平(ヤクルト)が捕球するとすぐに後ろを振り返り、気迫みなぎる大谷の投球練習を見つめた。
8回裏が終わると、ブルペンにいた投手たちが「さぁ行こー!」と大谷を送り出す。
レフト後方にあるブルペンから、マウンドへ、ゆっくりと歩いていく大谷の背中が、宇田川の記憶に強烈に刻み込まれている。
「もう、オーラがやばかったです。アメリカの球場なので大谷さんのファンもいっぱいいて、『ショーへー!』みたいな感じですごく盛り上がって、その中を歩いていく。なんて言うんですかね……言葉では表せないです、あのオーラ。すごかった。カッコよかったです」
宇田川の浮かない表情…なぜ?
その大谷が最後の打者、マイク・トラウトを三振に取り、日本の優勝が決まった瞬間、宇田川はブルペンから、マウンドにできた歓喜の輪に向かった。跳び上がり、抱き合う仲間たち。沸き立つスタンド。駆けながら、それらの光景をどこか別世界のことのように見ている自分もいた。
「みんながバーッとマウンドに向かう中、僕はちょっと遅れて、スタジアムの雰囲気を感じながら、周りを見ながら走っていたんですけど、『やっぱりここで投げたかった』という気持ちが強くて。ずっと、投げたい、投げたい、僕の出番はまだか、と思いながらブルペンで待機していたので。実際試合が終わると、スタジアムがめっちゃ盛り上がっている中、いろんな感情がありました。世界一になれてすごく嬉しい気持ち、もう侍メンバーとしての活動が終わる寂しい気持ち。一番大きかったのが、投げられなくて悔しい、アメリカで投げたかった、という気持ちでした。本当は100%喜ばなきゃいけないんですけど、100%嬉しかったんですけど、やっぱり悔しさも大きくありました」
複雑な思いを、申し訳なさそうに打ち明ける。優勝後、グラウンドを一周する宇田川の表情がどこか虚ろに見えたのは、そんな理由からだったようだ。