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「高校野球史上最高」あの江川卓から特大ホームラン…“早稲田実の伝説的バッター”を直撃取材「あの感触は今も鮮明に…」「全部ストレートでした」 

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太田俊明

太田俊明Toshiaki Ota

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photograph byJIJI PRESS

posted2023/04/01 11:00

「高校野球史上最高」あの江川卓から特大ホームラン…“早稲田実の伝説的バッター”を直撃取材「あの感触は今も鮮明に…」「全部ストレートでした」<Number Web> photograph by JIJI PRESS

「作新学院の怪物」江川卓からホームランを打った男――阿部功氏(当時・早稲田実)がインタビューに応じた

 当時の早実の主力は、4番でショートの田野倉利男(早実-中日-ロッテ)で、阿部氏はその田野倉の後ろを打つ5番サードだった。

 初回。江川は、1、2番を連続三振、3番は当たり損ねの内野ゴロという好調の出だしを飾った。

「球は速かったですよ。ベンチから見るとホップしているように見えました。ただ、当時関東ナンバーワンと言われていた成東高校の鈴木孝政(中日)のボールも見ていて、こちらもやはりホップするような凄い球だったので、江川を見て、どうにもならないとは思わなかったですね。打ってやると思ってました」

 監督からは、江川対策としてヘルメットのつばを深くかぶって高めの球を捨て、低めの球を狙うように指示が出ていたという。

 迎えた阿部氏と江川の初対戦はあえなく三振。

「全部ストレートでした。タイミングは合っていて、真後ろに飛ぶファウルを何球か打ったのですが、最後は空振りでした。私に対してだけでなく、試合が始まってから、ほとんどカーブは投げていなかったと思います。全部ストレート。でもそれは、こちらをナメているわけではなく、そういう投球スタイルなんだと思います。当時のパワーピッチャーは、フォークボールとかカットボールなんてないし、ストレートをどんどん投げ込む投手が多かったですからね」

迎えた「あの2打席目」

 早実は、速いストレートを投げ込む江川から4回まで一人もランナーを出せない。一方の作新は、ランナーを一人置いた状況で江川が打った“詰まった当たり”が外野へ。強風に乗ってフラフラと伸び、最後はレフトがグラブに当ててホームランゾーンにボールをトスする形でラッキーなホームランで先制した。

 当時の早実武蔵関グラウンドは外野にフェンスがなく、レフトポールとライトポールの間に50センチほどの高さの土手の仕切りを作り、その土手の上に白線を引いて、そのラインをボールがノーバウンドで越えたらホームラン、転がって出たらエンタイトル2ベースというルールだった。

 こうして、2対0と作新リードで迎えた5回裏、先頭の4番・田野倉が四球で歩き、すかさず盗塁。無死二塁のチャンスで阿部氏が打席に立った。とにかく甘いストレートを狙って思い切りスイングすると心に決めていた。

【次ページ】 ホームランを打たれて「動揺していた」

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