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起死回生弾・吉田正尚の“WBCへの覚悟”がスゴかった「日本が世界一だと証明できる」“120億円の男”が栗山監督の電話に即答した理由
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byGetty Images
posted2023/03/21 19:15
WBC準決勝メキシコ戦、試合を流れを大きく引き寄せた吉田正尚の同点3ラン。心が折れかけたチームを救う一撃だった
「悩んだか悩んでないかで言うと、悩みました。でもWBCというものが、やっぱり僕の小さい時から、憧れというか、一つ大きな目標だった。第1回、第2回と優勝を見て、第3回、第4回……第4回は自分がもうプロ2年目だったんですけど、なんというか、自分の野球人生の節目節目にあって、単純に先輩方のユニフォーム姿がかっこいいなと思った。日の丸を背負ってかっこいい、自分もそういう舞台に立ちたい、トップチームに入りたい、という思いは、今までずっと変わらずありました。メジャー移籍が決まっても、そのWBCへの気持ちは変わりませんでした」
特に第1、2回大会のイチローの姿や、第1回大会の準決勝・韓国戦で代打・福留孝介が放った決勝本塁打が強く印象に残っている。その頃から吉田の人生設計の中に“WBC出場”は組み込まれていたのだ。
ポスティングシステムにより実現したメジャー移籍がたまたま重なったが、それはWBCを断念する理由にはならなかった。
「オリンピックとはまたちょっと違う」
万年Bクラスだったオリックスを主砲としてリーグ優勝、連覇、日本一へと引き上げ、破格の契約でメジャーへ移籍。東京五輪では金メダルも獲得している。目標としていたものを次々に手に入れても、WBCへの憧れが色あせることはなかった。
“WBCは別物”
インタビュー中、吉田は何度もそう表現した。
「WBCという世界一を決める大会でこそ、日本の野球が世界一を証明できるというか。オリンピックとはまたちょっと違うと思う。(他国の)出場するメンバーを見てもわかると思うんですけど、熱量が違うというか。WBCは本当に国を背負って、まあ制限もあるので全員ではないですけど、その中でもベストなメンバーが揃ってしのぎを削る、本当にビッグイベントだと思っています」
答えるのが難しいのは承知で、メジャーとWBC、どちらへの思いが強いかと聞くと、こんな答えが返ってきた。
「比べづらいですけど……WBCはメジャーとはまた別物として見ています。“世界”という意味では一緒で、レベルが高いのも同じかなとは思いますけど、(WBCは)日本人の……なんと言えばいいんですかね、“魂”って言うとちょっとクサいですけど、なんかそういうものがある気がして」
強く惹かれる理由がそこにあった。
レッドソックスからは多くの選手がWBCに出場することになっており、エージェントを通して聞く限りでは吉田の出場に対してもネガティブではなかったという。
日本代表の栗山英樹監督とは、昨シーズン中に挨拶を交わし、「ずっと追ってるからな」という言葉をかけられていた。その後メジャー移籍が決まったが、昨年末、吉田は、チームとWBC出場に向け前向きに話を進めていることや、自身のWBC、日の丸への思いを伝えた。
指揮官は、「ちょっと考えさせてくれ」と、一旦電話を切った。
「僕がメジャー1年目だというところは、すごく心配してくれていましたね。ただ、僕の気持ちは変わらなかったので、そこは素直に伝えて。選ぶのは監督なので、選ばれるかどうかは別として、ただ自分の意志というのは伝えました」
後日、栗山監督から電話を受けた。
「本当に選ぶぞ」
「ぜひ。光栄です」
吉田正尚(よしだ・まさたか)
1993年7月15日、福井県生まれ。敦賀気比高、青山学院大を経て、2016年にドラフト1位でオリックスへ入団。昨季はCSのMVPに。20年、21年に首位打者。ベストナイン5回。昨季終了後にポスティングシステムを利用し、MLBレッドソックスへ入団。173cm、85kg
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