オリックスの7年間で抜群の実績を誇る侍ジャパンの主砲は、メジャー1年目で異例ともいえるWBC参戦を決断。その裏には、大舞台への憧れと日本で築いた自信があった。
「フィーバーしてるんですね、宇田川」
2月末、フロリダ州フォートマイヤーズでレッドソックスのキャンプに参加していた吉田正尚は、オリックスで同僚だった宇田川優希が、毎日のようにニュースになっていることが気になるようだった。
日本代表の宮崎合宿で当初なじめずにいた宇田川を、ダルビッシュ有が様々な気遣いでチームに溶け込ませ「宇田川会」「宇田川ジャパン」という言葉も生まれたという詳細を伝えると、吉田は嬉しそうに言った。
「夢があっていいんじゃないですか。誰にでもそういうチャンスがあるというのは」
どこか遠い世界のことのように微笑む。自身も同じ戦いの場に、アメリカからまもなく参戦するとは思えない穏やかさだった。
熱量を図りにくい選手ではある。感情が昂って叫んだり、声を荒げるという姿を、オリックス時代の7年間、あまり見たことがない。どんな時も穏やかな語り口は、内に秘めた熱を包み隠す。だからWBCへの思いの強さも図りかねていた。
昨年12月、レッドソックスへのポスティング移籍が決まり、オリックスの球団施設で記者会見を行った時のこと。WBCへの思いを聞かれた吉田は、淡々と答えた。
「自分としては、出場はもちろんしたいという気持ちでいるんですけど、球団の考えもありますし。1年目をスタートする前に(WBCに)ピークを持ってきて、そこからタフな160余りのゲームをこなしていくのはもちろんリスクもあると思いますし、自分だけの考えでは行けないところもありますが、意志としては伝えています」
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photograph by Yukihito Taguchi