野球のぼせもんBACK NUMBER
「ノムさんが呼んどるぞ」10年前、門田博光が初めて語った“野村克也への後悔”「寂しい背中で部屋から…」噂と違った“カドタの実像”
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph bySports Graphic Number
posted2023/01/28 11:00
プロ野球歴代3位の通算567本塁打を放った門田博光。1988年シーズンは40歳で打率.311、44本、125打点の成績を挙げて“不惑の大砲”と呼ばれた
先にインタビュールームへ。待っている時間がやけに長く感じた。まもなく入ります、の言葉と同時に背筋が伸びた。到着まで直立不動をキープしていた。
人生でトップ5に入る緊張度だったと思う。
しかし、ついに目の前に現れた門田さんは、想像とはまるで別人だった。柔和な笑みを浮かべ、「よぉ来てくれましたな」と歓迎してくれた。
いろいろな質問をした。そのすべてに、丁寧に応じてくれた。
その中で「他では喋ったことないなぁ」と言いながら、通算567本塁打のルーツについての話をしてくれた。
野村克也を激怒させて…「どれほど、心が痛んだか」
それは入団まだ1年目の3月、大阪球場での巨人とのオープン戦があった日の出来事だ。
「練習が終わって風呂に浸かっていたら球団マネジャーの声が飛んできた。『ノムさんが呼んどるぞ』。急いでユニフォームに着替えて行ってみると、王(貞治)さんと一緒に僕を待っとったんです」
ノムさんこと野村克也は当時「4番捕手」でもある兼任監督だった。
「そしたら、ノムさんが王さんに言うんです。『ワンちゃん、コイツはホームランを打つためにはブンブン振り回さなあかんと思うてる。軽く当てたらエエというのを教えてあげてや』と」
プロ野球選手としては小柄な身長170cmしかなかった門田さんは、プロ入り当初は俊足・強肩・好打の選手として期待されていた。現にルーキーで開幕スタメンデビューを飾っているが、打順は2番だった。
でもね……と門田さんが言葉を継いだ。
「話し合いにはならんかった。僕がつい言うてしまったんです。少し反発するように『2人で口裏合わせて言うとるんやないですか?』って。そしたら王さんは『ノムさん、えらいルーキーが入ってきましたな』と言うてるし、ノムさんは『もうお前には野球教えたらん』と大層怒らせてしまった。2人が寂しい背中で部屋から出ていくのを見てハッと我に返った。