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斬新なタイトルに込められた
カズらしさ。
~新書『やめないよ』発売によせて~
text by
近藤篤Atsushi Kondo
photograph bySports Graphic Number
posted2011/02/06 08:00
『やめないよ』 三浦知良著 新潮新書 740円+税
43年分の説得力が詰まった『やめないよ』。
数分後、いつものように素敵な仕立てのシャツに身を包み、カズが階段を上ってきた。彼はカメラの前に座り、20歳以上年下の選手と自分から肩を組み、ニコニコ笑いながら、言った。
「いつも見てるよ。うまいね」
そして朗らかな声で付け加えた。
「でもさ、プレーしてるとき、ちょっと暗いな」
残念ながら、そのときの写真はあくまでも個人的なものなので、誰にも見せられない。写真の中の2人の若者は、カズの隣で、本当にうれしそうな笑顔を浮かべている。
『やめないよ』
今回カズが出した新書のタイトルだ。中身は、日本経済新聞に連載していたコラムをまとめたものだ。
いい時、悪い時、一人のサッカー選手の心の動きが伝わってくる。サッカー選手の本なんだから、基本的にはサッカーの話だ。心構えについて、トレーニングについて、審判について、etc。でもときどき、社会のこと、政治のことなんかについての言葉も出てきて、そこには43年分の説得力がある。
『やめないよ』。いかにも彼らしい、タイトルだと思う。
でも、カズさん、自分から言わなくても大丈夫だよ。あなたに面と向かって、もうサッカーやめなよ、と言える人はいないから。少なくとも僕は、サッカー選手ではないあなたのことを、まだうまく想像できない。