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チームオーダーの是非やいかに? ペレス、ウェーバー、バリチェロ…「非情な現実」を戦うセカンドドライバーの反乱史
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byGetty Images
posted2022/12/23 06:01
(左から)ペレス、ウェーバー、バリチェロ。時代は異なっても、それぞれがセカンドドライバーの悲哀を味わってきた
それから9年後に起きた今回のブラジルGPでの一件もまた、伏線があった。起点となったのは2022年5月のモナコGPだった。抜きどころがないモナコは予選ポジションが重要となるが、その予選の最後のアタックでペレスがスピンしてクラッシュ。予選は赤旗が出され、最後のアタックができなかったフェルスタッペンはまさかの予選4位に終わった。
結果的にフロントロウを独占したフェラーリが戦略ミスを犯して、フェルスタッペンはライバルだったシャルル・ルクレールの前でレースを終えることができたが、チャンピオンシップ争いをしていたフェルスタッペンはチームメートが犯したミスを許せなかった。それはブラジルGPでの指示を、こう言って拒絶していたことでもわかる。
「このことは前にも言っていたはずだ。もう二度と言うな。その理由も伝えていたし、それはいまも変わらない」
レース後、多くのファンがフェルスタッペンの行動を非難した。2021年にフェルスタッペンがチャンピオンを獲得した際には、ペレスがライバルだったルイス・ハミルトン(メルセデス)を何度か抑え込んで貢献していたのに、すでにチャンピオンが決まっているフェルスタッペンがチームメートへ恩返ししなかったと考えたからだ。
セカンドドライバーの置かれた現実
レッドブルはブラジルGPのレース直後にドライバー2人を集め、緊急ミーティングを行った。そして1週間後、最終戦アブダビGPに現れたペレスに、ブラジルのときのような勢いはなかった。
「僕がブラジルGPのレース後に語ったことについて後悔してる。マックスとの関係は以前のような形に戻っているし、僕たちはもう次に進む準備ができている」
後日、フェルスタッペンはこの一件を次のような言葉で振り返った。
「チームに2人のドライバーがいれば、どちらかが必ずもう一方のドライバーが少しだけ優れていることを認めなければならない時が来る。この世界で長く生きていくためには、その非情な現実を受け入れることがとても重要だ」
だれもが勝利を目指して戦っている。だが、勝つドライバーはひとり。チームが速いドライバーを優先するのは今も昔も変わりなく、そこに同情が入り込む余地はない。なぜならF1は、おとぎ話の世界ではないからだ。