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チームオーダーの是非やいかに? ペレス、ウェーバー、バリチェロ…「非情な現実」を戦うセカンドドライバーの反乱史
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byGetty Images
posted2022/12/23 06:01
(左から)ペレス、ウェーバー、バリチェロ。時代は異なっても、それぞれがセカンドドライバーの悲哀を味わってきた
その2年後にも、セカンドドライバーが反旗を翻すという事件が起きた。2013年のマレーシアGPでのレッドブルだ。
当時のファーストドライバーはセバスチャン・ベッテルで、セカンドがマーク・ウェバー。2人はそれまでもコースの内外で衝突していたが、ベッテルが3連覇に輝く不動のファーストドライバーとなっていたのに対して、ウェバーはランキング3位が最高のセカンドに甘んじていた。
予選でポールポジションを奪ったのはベッテルだったが、レースをリードしたのはウェバーだった。2台のレッドブルは1-2体制を築き、レースは終盤に突入。ここで、レッドブルは2人のドライバーに「マルチ21」という暗号を無線で飛ばした。この21とは、2人のカーナンバーの順番を示し、カーナンバー1のベッテルがカーナンバー2のウェバーの後ろでフィニッシュするという意味だった。この年のタイヤは消耗が激しく、チームはそのままのポジションでレースを終わらせたかったのだ。
だが、ベッテルはその指示に逆らい、ウェバーをオーバーテイクして逆転優勝する。約束を反故にされたウェバーはチームとベッテルを非難。次のグランプリとなった中国GPでチームは緊急ミーティングを開催したが、ウェバーを待っていたのは非情な現実だった。
「ドライバーとしては尊敬しているけど、人としては尊敬していない」とウェバーを非難するベッテルの態度を、チームが容認したのだ。
前年に遡る恨みの伏線
じつはこの事件には伏線があった。前年の最終戦ブラジルGPで当時フェラーリのフェルナンド・アロンソとタイトルを争っていたベッテルは、スタートでウェバーに幅寄せされるという仕打ちにあっていた。これで順位を落としたベッテルは、その後の集団に飲み込まれ、コーナーの立ち上がりで接触に遭い、スピン。その後、ベッテルは驚異的な追い上げを見せて、自力でチャンピオンとなったが、あわやチャンピオンを失いかねないピンチに陥るきっかけを作ったウェバーの行動を忘れておらず、チームオーダーを無視してウェバーを抜くことで復讐を果たしたのだ。
この一件でチーム内に居場所を失ったウェバーは、その年限りでの退団を決意。失意とともにF1からも去った。