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「歯もなくなって、顎もズレて、超地獄だけど…」スターダム王座戦で負傷…プロレスラー・白川未奈はそれでも“希望のベルト”を追い続ける
text by
原壮史Masashi Hara
photograph byMasashi Hara
posted2022/11/10 11:02
11月3日、白川未奈は上谷沙弥の持つワンダー・オブ・スターダム王座に挑戦。口腔部と顎を負傷しベルト獲得は叶わなかったが、プロレスラーの矜持を示した
「歯もなくなって…」号泣しながら語った“希望”
3カウント目が叩かれようかという瞬間、白川は必死にキックアウトを試みた。しかし、マットは3回叩かれた。上谷のフェニックス・スプラッシュが顔に入っており、白川は顎と口腔部を負傷。前歯が折れ、口から出血していた。そのまま試合を続けられる状態ではなく、実質的なレフェリーストップ。バーブ佐々木レフェリーによる好判断だった。
口をタオルで覆い、中野に抱きかかえられていた白川だったが、マイクを持つと口元を隠すこともなく冒頭の言葉を発し、そしてこう続けた。
「この火は絶対に消えないから。地獄から這い上がってやるよ!」
彼女はバックステージでもコメントを残している。
「もう無理かもって思うことが人生で何回もあったけど、そのたびに、自分の夢をつかむために……。それが、夢が私の希望だから、生き続けられました」
涙が止まらなかったが、“弾けるヴィーナス”は最後まで前を向いて話し続けた。
以前、白川との白いベルト戦を前に、中野はこう語っていた。
「苦しみや哀しみを知ることで強くなれる。それがこの白いベルトの持っている魔力」
白いベルトは保持者の色に染まる。呪いのベルト、全力のベルト、希望のベルト……。関わると自分自身と深く向き合うことになるこのベルトは、それぞれの人生によって呼び方が変わる。バックステージで、白川は言葉を続けた。
「この地獄から這い上がるところをファンのみなさんに見せないと『プロレスラー』じゃないから……! 歯もなくなって、顎もズレて、ベルトも取れなくて、超地獄だけど、絶対に白いベルトを巻いて、みんなの生きる希望になる」
それが、彼女の今の夢だった。
地獄に落とされても、絶望を味わわされても、どんな時でも希望は残されている。ここまで来られたのだから、この先にも必ず行ける。
「またやり直して強くなってきます。ありがとうございました」
プロレスラー・白川未奈は、自らの足で去っていった。