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「アリガトウゴザイマス、スズカ」元王者セバスチャン・ベッテルが愛する“神の手で作られたコース”鈴鹿で見せた鬼気迫るラストラン
posted2022/10/18 11:03
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph by
Getty Images
セバスチャン・ベッテル(アストンマーティン)と鈴鹿が恋に落ちたのは、いまから13年前のことだった。2009年、初めての鈴鹿でのレースでレッドブルを駆って勝利したベッテルは「鈴鹿は、神の手で作られたコース」と、その素晴らしさを称賛した。
多くのドライバーに愛されてきた鈴鹿サーキット。かつてアイルトン・セナが、自身初となるワールドチャンピオンを獲得した1988年に「スプーンカーブを走っているとき、神を見た」と語ったことがあるが、ベッテルの言葉はそれ以来のインパクトを鈴鹿のファンに与え、いまも語り継がれている名言となっている。そう表現した理由をベッテルは次のように説く。
「初めて鈴鹿を走ったときから、ここは特別な場所だった。特にセクター1は独特の雰囲気がある。だから、ホームストレートを全開で駆け抜けて、1コーナーに進入していくとき、僕はヘルメットの中で『よし、始まるぞ』って、いつも自然に笑みがこぼれているんだ。神様が作ったのかどうかはわからないけど、このサーキットには確実に何か精霊みたいなものが宿っているということをいつも感じながら走っていた」
世界最高のファン
ただし、鈴鹿の素晴らしさはコースだけではないとベッテルは言う。
「雰囲気が特別なんだ。鈴鹿のファンは世界でも最高。ここでは本当にたくさんのいい思い出がある」
ドライバーが宿泊するホテルの周辺、ホテルからサーキットへ向かう途中の交差点、サーキットの入口……木曜の朝から多くのファンが思い思いのコスチュームを着て、横断幕を掲げながらドライバーやチーム関係者を待つ姿は世界でも例がない。F1というスポーツに対して、多くのファンが最高のリスペクトを捧げていることがF1関係者たちの胸を打つ。それが鈴鹿を唯一無二の存在にしている。それは、かつてのF1界の最高責任者だったバーニー・エクレストンが「鈴鹿のファンは、いいなあ」とつぶやいたほどだった。
しかし、その鈴鹿は20年から2年間、コロナ禍でF1が開催されなかった。昨年、直前になって再び中止が決定された際、ベッテルは言った。