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「アリガトウゴザイマス、スズカ」元王者セバスチャン・ベッテルが愛する“神の手で作られたコース”鈴鹿で見せた鬼気迫るラストラン
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byGetty Images
posted2022/10/18 11:03
鈴鹿への愛とファンへの感謝を胸に、ベッテルは元王者らしい気迫のこもった走りを披露した
「鈴鹿がカレンダーにないF1は、F1じゃない。これで、もう1年、現役を続けるモチベーションを保つことができた」
そのベッテルが3年ぶりの鈴鹿を直前に控えた7月に、今シーズン限りでのF1引退を表明した。3年ぶりの鈴鹿は、ベッテルにとって、最後の鈴鹿となった。
木曜日、ベッテルはファンからプレゼントされた「一番」と書かれた鉢巻を頭に締めて一日を過ごした。
「今朝、もらったんだ。それと小さい馬のぬいぐるみももらったよ。鈴鹿のファンはすごく思いやりがあって、いつも心のこもったプレゼントをくれる。素敵な手紙や素敵なメッセージを添えてね」
大好きなコースとファンの前での、最後の予選。ベッテルは後半戦初のトップ10入りを果たす最高のアタックを披露した(スターティンググリッド10番手以内は後半戦2度目)。燃料を軽くしてマシンの限界で攻める予選は、ドライバーにとってレースとは異なる特別なアドレナリンが出るという。しかも、難コースの鈴鹿では、ほかのサーキット以上に熱くなる。その鈴鹿でベッテルは全力を出し切った。
全世界に伝えた感謝の気持ち
すると予選直後に、国際映像のベッテルの無線から普段聞くことがない日本語が飛び出した。
「アリガトウゴザイマス、スズカ」
その言葉は、自然に出たとベッテルは語る。
「鈴鹿は僕にたくさんの喜びを与えてくれた。クルマの中では生きている実感を与えてくれた。そして、スタンドからはたくさんの人が応援してくれた。多くの日本人が僕らの帰りを心から喜んでくれているみたいだった。ドイツ国旗もたくさんあった。だから彼らに感謝の気持ちを伝えるべきだって感じたんだ」
そして、こう続けた。
「まだ明日のレースが残ってるから……」
10月9日、日本GP決勝。雨の中、9番手からスタートしたベッテルは、1コーナーでフェルナンド・アロンソ(アルピーヌ)と接触し、コースアウト。大きく順位を落としてしまったものの、諦めずに再スタートし、レースに復帰した。それは愛する鈴鹿と素晴らしいファンのために1周でも多く走るためだ。