濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
殴り続けた鈴季すず、抱きしめたジュリア…スターダムリーグ戦“最大のカード”は何を残したか?「本当の姉妹」「憎しみは晴れた」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2022/10/19 11:03
10月1日、スターダムでついに実現したジュリアvs鈴季すずのシングルマッチ
焼肉を食べながら、ジュリアの前で泣いた日
10月1日、武蔵野の森総合スポーツプラザでのリーグ戦ファイナル。アイスリボン時代以来の一騎打ちは最高のシチュエーションになった。ビッグマッチというだけではない。勝ったほうがブロック1位、決勝進出となる大一番。ポイントで先行するジュリアは、引き分けでも1位が確定する。
「引き分けでもいいというのは気持ちの上で大きかった」とジュリア。楽になったということではない。「これで、よりすずとの闘いにのめり込める」と感じたのだ。どうしても勝たなければいけない試合ではなくなった、だから結果以上に鈴季すずと向き合うことができる。
特別な上にも特別な試合。リングに上がったすずは目に涙を浮かべていた。
「レスラーという以前に、1人の人間としての感情が出てましたね。試合前に泣くなんてレスラー失格かもしれないですけど」
そうなるのも仕方がなかった。ジュリアとはレスラーになる前、練習生時代から同じ場所で同じ時間を過ごしてきたのだ。そんなジュリアが自分の前から去って、3年が経っていた。思い出したのは、新弟子生活が辛くてジュリアの前で泣いたことだ。
「道場の近くで焼肉食べながら泣きましたね。辛いことをそのまま辛いと伝えて、でもジュリアはそういう後輩を見放すような人ではなかった。悩みを全部聞いて、自分の経験を踏まえてアドバイスをしてくれました」
ジュリア「本当の姉妹みたいな気がして」
ジュリアも「細かいことまでいろいろ思い出しました」と言う。
「焼肉食べながら泣いてたこと、ありましたね。先輩の愚痴を聞いたり、2人でめんどくさい仕事を任されたり。グッズの集計をした時はすずが計算を全部間違えて、夜中までやり直して。すずが骨折した時も」
すずは自転車で転倒し骨折、デビュー戦が延期になっている。そんな失意の日々も、ジュリアは隣にいた。ちなみにすずが乗っていたのは、ジュリアの自転車だったそうだ。
「本当にいろいろ“事件”がありましたね……」
試合の直前。すずが花道へ出ていく姿がステージの裏から見えた。ジュリアはそこで感極まった。
「自分が花道を進む時はもう、喉の奥が痛いというか胸がいっぱいというか」
試合前に涙を見せるなんてレスラーとしてどうなんだという感じですけど、とジュリア。そんな言葉まで2人は似ているのだった。
「ジュリアは単に先輩レスラーというのではなく、家族みたいな思い入れがあるので。今回だけはお客さんに見せるとか伝えるとかではなく、申し訳ないけどジュリアに思いを伝えるためだけに試合をしました」(すず)
「闘ってみて感じたのは“血、つながってたっけ?”と(笑)。他人とは思えないんですよ。家族というか、本当の姉妹みたいな気がして」(ジュリア)