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殴り続けた鈴季すず、抱きしめたジュリア…スターダムリーグ戦“最大のカード”は何を残したか?「本当の姉妹」「憎しみは晴れた」

posted2022/10/19 11:03

 
殴り続けた鈴季すず、抱きしめたジュリア…スターダムリーグ戦“最大のカード”は何を残したか?「本当の姉妹」「憎しみは晴れた」<Number Web> photograph by Norihiro Hashimoto

10月1日、スターダムでついに実現したジュリアvs鈴季すずのシングルマッチ

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橋本宗洋

橋本宗洋Norihiro Hashimoto

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Norihiro Hashimoto

 ジュリアvs.鈴季すずは、スターダムのリーグ戦「5★STAR GP」公式戦における最大の注目カードだった。

 どちらもアイスリボン出身。ジュリアは2019年10月に退団を表明し、スターダムへ。“白いベルト”ワンダー・オブ・スターダム戴冠、女子プロレス大賞受賞など大きな結果を出した。

 アイスリボンでのジュリアのすぐ下の後輩がすずだった。練習はもちろん団体職員としてともに仕事もした。寮でも同じ部屋だった。大げさでなく24時間一緒だったのだ。

「私は中学を卒業してすぐ、地元を出て入門したので。何も分からない田舎の娘に社会を教えてくれたのがジュリアでした」(すず)

 だがジュリアは、すずに退団を伝えることなく去っていった。そこには配慮もあったのだが、すずには「無言で去られた」という思いが残ってしまう。

 突然の退団発表とスターダム登場。業界中が騒然となった。ジュリアが残していった荷物を段ボール箱にまとめ、アイスリボン事務所を訪れたスターダム関係者に渡したのはすずだったという。

「最悪でしたよ。最悪に複雑っていうか。あの段ボールにはジュリアの荷物だけじゃなく怒りと恨みも詰め込みましたね。本当のことを言えば、その時だってジュリアのことは嫌いじゃなかった。でも嫌いにならなきゃいけないんだという気持ちで。そういう気持ちでいると、本当に嫌いになってくるんですよね」

すずの思い「ジュリアがやめてなかったら…」

 そんなすずも昨年いっぱいでアイスリボンを退団した。世羅りさたちとともに女子ハードコア・デスマッチユニット「プロミネンス」を結成。もともとデスマッチがやりたくて、すずはプロレスラーになった。今は団体所属時代よりもはるかに自由にハードコアマッチ、デスマッチに挑み「全プロレスラーの中で私が一番楽しくやってるんじゃないか」とさえ言う。

 プロミネンスはスターダムにも乗り込んだ。参戦表明したのは1月下旬のことだ。ジュリアもリングに上がる。すずが詰め寄った。残された人間がどんな気持ちだったか、お前に分かるのか。そう言って頬を張り、大乱闘。プロミネンスとしては業界最大の団体がターゲットだったが、すずの狙いはジュリアだけだった。

 ジュリアがアイスリボンをやめたことで、すずのキャリアも大きく変わった。何しろ団体から次期エース候補が抜けたのだ。それなら自分がやるしかない、とすずは決意した。ジュリア退団表明直後の大会、デビューして1年も経っていないすずがメインで勝利し、これからのアイスリボンは自分が引っ張ると泣きながら宣言した。そしてその言葉通り、翌年夏にシングル王者となる。まだ17歳だった。ジュリアがいないから、すずは“若手”ではいられなくなった。ジュリアがいなくなったから成長できたということでもある。

「結果オーライでしたね、全部。ジュリアがやめてなかったら、私はまだ大人に甘えてたかもしれない」

【次ページ】 “外敵”のイメージを変えたすずの実力

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